著名人の憂鬱

「ラーメン店の店員が、冷凍庫内に在った商品のソーセージを口に咥えた姿を撮影して投稿。」、「コンヴィニエンス・ストアや弁当店で客や店員が、アイスクリーム用冷凍庫内や冷蔵庫内に入り込み、其の姿を撮影して投稿。」等、此の所、Ｔｗｉｔｔｅｒ上に問題写真が次々に載せられ、大きな問題になっている。当該店には「不衛生だ！」等の抗議が殺到し、中には閉店に追い込まれた所が出る等、店側の被害も甚大。

 

「店員の管理が杜撰。」と店側を責める声も在る様だが、「そんなアホな事をする訳は無い。」と思っていただろうし、責められる店側に気の毒さを感じる部分も。況してや客の乱行となると、店側の管理体制云々以前の話の様な気がする。

 

理解し難いのは、「自身の顔を晒した上で、問題写真を撮影＆投稿している者達。」の事。そういう事をすれば大問題になり、店側にも甚大な被害を与え、延いては自身に其れなりの損害賠償の請求がされる可能性というのを、彼等は全く判っていないのだろうか？年端の行かないガキんちょがした事なら致し方無いだろうが、問題になっているのは“良い年齢の人間”許りというのが情け無い。「仲間内だけの戯れ」と思っているのかもしれないが、もしそうならば「インターネットに関する最低限の知識すら無い。」と言わざるを得ない。

 

ホテルの従業員や店の店員達が、“就業中”に訪れた著名人の言動をネット上で詳細に記し、大きな問題になったケースも少なく無い。「就業中に知り得た“客”のプライヴァシーを、彼此とネット上に記す。」というのは、１人の社会人として失格だろう。就業中で無い場合、例えば街中で著名人を見掛けたとかで在っても、「自分がされて不快に感じるレヴェルの書き込み」はネット上でも慎むべき。

 

常に衆人環視の中に在る著名人って、「本当に大変だなあ。」と思ってしまう。中には「常に皆から注目されていたい。」と思っている者も居るだろうけれど、「プライヴェートの時は、放っておいて欲しい。」というのが、多くの著名人の思いではないだろうか？

 

唯、“著名人の憂鬱”というのも在る。どういう事かと言えば、「嘗ては可成り著名だったけれど・・・。」という人達の場合、「周りから気付かれない事に、大きな不安を感じてしまう。」というケース。

 

もう“時効”だろうから記すが、“昭和の大スター”と呼ばれた某歌手の別荘に、家の親が呼ばれて泊まった事が在る。親の学生時代の友人が彼と知り合いで、其の関係で呼ばれたのだ。プレーボーイとして鳴らし、数々の浮名が立った彼は、実に紳士的でフレンドリーな人柄だったと言う。

 

離婚歴が何度か在り、離婚する度に全財産を別れた妻達に渡していたという彼。移動には高級車を使用していたのだが、「離婚を繰り返した事で、財産と呼べる様な物は余り無い。本当は小型車でも良いんだけれど、そんなの乗ってると、『あんなにも落魄れたのか。』と言われてしまうだろうし、『周りに気付いて欲しい。』という思いも、心の何処かに在るんだよなあ。」と苦笑し乍ら話していたそうだ。３０数年前の話で、彼も既に鬼籍に入られている。

 

２０年近く前だが、近所の小洒落た飲食店に、家族で行った時の話。食事をしていてふっと横のテーブルを見ると、見覚えの在る顔が。自分の年代では、知っている人は其れ程多く無いだろうけれど、自分より上の年代ならば、多くの人が知っているで在ろうタレントだった。元々は歌手で、司会者としても有名だった人物。親も気付いてはいたのだが、「プライヴェートで来ているのだろう。」という事で、敢えて気付かない振りをし続けていたのだが、彼としては「年齢からして息子（ｇｉａｎｔｓ－５５）は自分の事を知らないかもしれないけれど、親は知っていて当然じゃないのかなあ？」と不安に思ったのだろう。「えっと、明日のスケジュールはどうなっていたかな？ＴＶ局に行くのは、明日じゃなかったかな？」等と、手帳をペラペラと捲り乍ら、明らかに此方に聞こえる様な大声で“独り言”を言い始めたのだ。

 

「『明日のスケジュール』って、手帳を捲る迄も無く、真っ白じゃないの？」と、心の中で毒を吐いた自分。親も下を向いて苦笑していた。食事を終え、テーブルを離れる際、然も「今、気付いた！」といった感じで、「あれ！？」という表情で彼を見た親。寂しげな表情を浮かべていた彼が、一転して笑顔になったのは、矢張り周りから気付いて欲しかったのだろう。