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男性ファッション誌「メンズスタリオン」が主催する、新人タレント発掘オーディションの「スタリオンボーイコンテスト」は、今や芸能界への登竜門となっている。た「スタリオンボーイコンテスト」。其の初代グランプリに輝き、モデルとして芸能界入りした小早川当馬(こばやかわ とうま)は、売れない時期を経て、35歳の今は俳優として其れなりに知られた存在となった。「イケメンなのに、下ネタが好き。」というイメージ戦略が当たり、「種馬王子」の異名で人気が出たのだ。
俳優として着実にキャリアを積み、プライヴェートでは3人の美女と同時進行で付き合う等、あらゆる面で好調に在った当馬だったが、体調不良を切っ掛けに訪れた病院で、小細胞肺癌と診断される。余命1年を宣告された彼に、一体何が出来るのか?人生最後のステージが、今、幕を開ける。
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石田衣良氏の小説「余命1年のスタリオン」は、35歳という若さ、其れも幸せな日々を送っている最中で、余命1年の宣告を受けた俳優の姿を描いている。
芸能界の事をそこそこ知っていると、「『スタリオンボーイコンテスト』って、『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』を指してるんだろうなあ。」、「(登場人物の)○○は恐らく、勝新太郎氏をイメージしたキャラクター設定だろうな。そうなるとXXは吉永小百合さんを、△△は沢村一樹氏をイメージしたキャラクターかな?」等々、色々想像出来て面白い。
3人の美女達と関係を持ち続ける等、バツイチになって以降も女性には不自由していなかった当馬だったが、余命1年で在る事が判ってからは、彼女達との関係に“歪み”が生じ始める。信じていた者達から裏切られる事で、初めて当馬は“本当の恋”をして来なかった事に気付かされるのだが、そういう経験をした事で「自分にとって、本当に必要な人間は誰なのか?」も思い知る。「良く在るパターンの物語」では在るのだけれど、先の展開が気になって、どんどん読み進めさせるのは、石田氏の筆力だろう。
「癌を罹患し、苦しみ乍ら亡くなった祖母。」を持つ身としては、当馬の闘病は他人事に思えず、其の記述にはついつい感情移入してしまった。「結局、当馬はどうなったのか?」は明らかにされていないが、九分九厘は哀しい結末を迎えた事が予想される。でも、其処迄描かなかった事で、後味の悪さは無く、寧ろ“清涼感”の様な味わいが。
1つだけ気になるのは、「セックスに関する記述」の多さ。「生きて行く中で、セックスというのは重要な存在。」という石田氏の考え方は否定しないし、そういった面は確かに在ると思うが、其れにしても近年の彼の作品には「セックスに関する記述」が多過ぎ、助平な自分でも辟易としてしまう。「観客を呼び込みたいが為だけに、無理無理にセックス・シーンやヌード・シーンを“押し込んだ”映画。」が少なからず在るけれど、そういった類いと似た感じがする。
総合評価は、星4つ。