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都会の片隅で生きる人々の埋もれた「真実」が明かされる時、過去の重みが忍び寄る。
・本番当日に失踪した舞台女優と数年振りに再会した脚本家の心に去来した物。(「不在の百合」)
・嘗ての仕事仲間の訃報を私に告げた、意外な人物。(「隠したこと」)
・自堕落な生活を続ける後輩との会食で、私が取った或る行動。(「反復」)
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佐々木譲氏と言ば「道警シリーズ」や「警官の血シリーズ」といった警察小説の書き手として知られるが、今回読んだ「降るがいい」は、朗読会用に書かれた物を含めた13の短編小説で構成されており、全てが警察小説では無い。
複雑で振り返りたくない過去を持つ人物達が、多く描かれている。前向きな結末も在れば、何とも言えぬモヤモヤ感が残る結末も。「遺影」という作品なんぞは、典型的なの作品だろう。読み終えた後に残るのは、不快な思いだけだ。
好きな番組の1つ「ドキュメント72時間」。「毎回或る1つの場所で72時間(3日間)に亘って取材を行い、其処で見られる様々な人間模様を定点観測するという趣向のドキュメンタリー。」だ。先日放送された回では、今年8月一杯で閉園となったとしまえんの代表的な乗り物の1つ、メリーゴーラウンド「カルーセル・エルドラド」だった。
今回も「世の中には、色々な人が居るんだなあ。」と思わせる内容だったが、一番印象に残ったのは30代の男性。カルーセル・エルドラドにスマホのカメラを向け、一心不乱に撮影していた。番組スタッフが声を掛けた所、「両親と自分と妹という4人家族の彼は、幼い頃にとしまえんを訪れていた。離婚には到っていないけれど、両親は不仲な状態に在り、妹とも疎遠な状況に在る今、楽しかった昔を思い出したくて来た。」のだと言う。「撮った映像を妹に送れば、昔を思い出してくれるかなあとも思って。」と、静かに語る彼の姿がとても印象深かった。
最後に収録された「終わる日々」は“壊れてしまった家族”を扱っており、読んでいて“彼の家族”の事が重なった。「亡き母によって壊れてしまった家族が、時を経て“父の最期”により、“修復”に向かって行く。」というストーリーで、結末にホッとさせられると共に、最も印象に残る作品。
全体的には、パッとしない作品だらけ。「佐々木作品は、長編小説の方が良いな。」と感じる結果となった。
総合評価は、星3つとする。