「此の前、外で知り合いに会った際、話そうとしたら声が出なかったのよ。」。母の知人・Aさんが、去年そう言ったのだとか。Aさんは80歳代の女性で、ずっと御主人と2人暮らしをしていたのだが、2年前に御主人が亡くなって以降、一人暮らしをしている。一人暮らしなので、自宅で誰かと話す機会は子供からの電話位で、後は外に出た際に誰かと話す位だった。そんな生活が半年程続き、久し振りに外出した際、知り合いと会って話をし様としたら、声が出なかったという事だ。
「『え!?』って、本人が驚いちゃった。『何で声が出ないの!?』って。一人暮らしで、日常的に話す機会が無かったので、声帯とか、会話を司る脳が衰えたんでしょうね。『此の儘じゃあ不味い。』と思って、以降は積極的に習い事に行ったり、家でTV番組を見ている際に画面に向かって話し掛けたりと、意識して話す様にしているのよ。」とAさん。「そんな事在るんだ。」と、母は半信半疑だった。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、3月以降は「不要不急の外出は控えるべし。」という“空気”で満ちている。「“3密”を避ける。」という観点から、様々なイヴェントが中止に追い込まれた。高齢の母は歌う事と歩く事が大好きで、地元で開催される“歌う会”や“歩く会”を梯子していたのだが、そういう会も軒並み中止。既に4ヶ月が経過したけれど、再開の目途は全く立っていない。
「毎日歩かないと足腰が弱ってしまうし、延いては認知症になってしまう。」という恐怖心を持つ母は、新型コロナウイルス感染拡大する中も、人が出歩かない場所や時間を狙って、出来るだけ歩く様にしている。でも、大声で歌う機会は無かった。先月、歌番組で懐メロが流れていた際、歌に合わせて自分も歌ったら、「声量が落ちたし、声も掠れたなあ。」と感じたと言う。
「こんなに長期間、歌う会やら歩く会が中止となったら、声が出なくなったり、足腰が弱ったり、延いては認知症になってしまう年寄りが増えるのでは?」と母が言っていたけれど、確かにそんな気がする。