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神奈川県警刑事部長に着任した異色の警察官僚・竜崎伸也(りゅうざき しんや)。着任早々、県境で死体遺棄事件が発生、警視庁の面々と再会するが、何処か遣り難さを感じる。更に被害者は中国人と判明、公安と中国という巨大な壁が立ちはだかる。一方、妻の冴子(さえこ)が交通事故を起こしたという一報が入り・・・。
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今野敏氏の小説「清明 隠蔽捜査8」は、彼の人気作の1つ「隠蔽捜査シリーズ」の11弾。隠蔽捜査シリーズを御存知無い方も居られ様から、主人公に付いて簡単に記すと「キャリア官僚で階級が警視長の竜崎は、私利私欲と無縁で、『国民の為に働く。』という信念の下、原理原則を忠実に守るタイプの人間。エリート街道驀地で来た彼だが、息子・邦彦(くにひこ)が『ドラッグ吸引→自首→保護観察処分』となった事で、“左遷”されてしまう。階級は変わらないものの、左遷という事になれば、普通は自暴自棄になってしまう物だが、竜崎は『今の立場で国民の為に出来る事を、最大限行う。』という姿勢を変える事無く、事件と向き合って行く。」という設定。
悪く言ってしまうと、“場の空気が読めない人間”という事になろう。どんな立場の人間で在ろうとも無関係に、自身の信じる“正しさ”を変える事無く、言動してしまう。そんな彼だからこそ、煙たく思う人間も出て来るが、一方で「公私混同や忖度をする事無く、正義を貫いて行っている。」事に気付いた人間は、竜崎に魅了されて行くのだ。彼自身は妙な計算をする事無く、原理原則を貫いているだけなので、周りから“変人扱い”される事が不思議でならない様だ。社会に揉まれてしまうと、どうしても「人から嫌われたくない。」という思いが出て来て、相手に合わしてしまう事が在ったりする。そういう事が出来る人間からすれば、「竜崎、何故判らない?」と突っ込みを入れたくなるけれど、「愚直過ぎるからこそ、彼の言動には心地良さを感じる。」という読者も多そう。
今回の作品、竜崎は大森署長の任が解かれ、神奈川県警刑事部長に着任する。組織的に言えば、警視庁から神奈川県警に移った訳だ。警視庁と神奈川県警は、知る人ぞ知る“犬猿の仲”。互いに張り合う人間が多い中、竜崎だけは「同じ警察だろ。」と意に介さないのが天晴れ。
結構昔になるが、仕事でタイに長期出張する事が結構在った。一緒に仕事したタイ人の中に、自分より若い男性が居たのだけれど、彼は華僑だった。親の跡を継いで、自分でビジネスをしていたのだけれど、華僑同士の繋がりを非常に大事にしていたのが印象に残っている。海外では我々日本人も邦人同士の繋がりを大事にする物だが、華僑の場合はレヴェルが全然違う。「仕事よりも、華僑の集まりを最優先する。」といった感じで、ちょこちょこそういう集まりに参加していた。結果としてそういう深い繫がりが、新たなビジネスに結び付いて行くのだけれど。「清明 隠蔽捜査8」では、そんな華僑の世界も描かれていて、個人的には興味深かった。
又、今回の作品では新たな登場人物が登場する。恐らく今後も、彼は重要な役割で登場する事になると思われるが、竜崎との最初の出会い方は最悪な状態。でも、竜崎の生き方を知った事で、彼は竜崎に魅了された様だ。“計算の全く無い人誑し振り”は最強だし、「自分にも、そういう能力が備わっていたらなあ・・・。」と思ってしまう。
総合評価は星4つ。