「再生」は12の短編小説で構成されている。その半数以上は著者・石田衣良氏が直接当人から聞いた話を、小説に仕立て直した物だとか。登場する人物達の殆どは、何処にでも居る様な一般人。現在に不満を、そして将来に不安を感じ乍らも、何とか日々を送っている人々の日常が描かれている。
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鬱病の妻を自殺で失い、幼い息子を一人で育てるサラリーマン。家族を捨て、後悔の念に苛まれるラジオ・ディレクター。定年退職後、新たにタクシー運転手を目指す元トラック運転手。前触れも無く、彼から別れを切り出されたキャリアウーマン。不況下で中小の広告代理店に入社し、将来に不安を覚える新入社員。単調な日々の仕事にうんざりする契約社員・・・。彼等の平凡な日常に舞い降りた小さな奇跡とは?
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12の短編は2006年末から今春に掛けて、月刊誌に連載された物。後書きで石田氏が「時代の傾斜は険しくなり、いつのまにか絶壁が目のまえにそそり立っています。誰もが手と足を踏ん張って、なんとか斜面にかじりつく。そうしなければ滑り台のように安全ネットのない奈落に転げ落ちていく。そんな時代がやってきたのです。」と記している様に、雇用状況が著しく変化(悪化)して行く中で生まれた作品と言える。そんな時代の荒波の中で懊悩する人々の姿を描き乍ら、最後には「読者の乾いた心に潤いを与えてくれる結末」を用意しているのは、弱い立場の人を柔らかい視線で見詰める石田氏ならではと感じる。
特に印象に残った文章を挙げるならば、「出発」という短編に記された以下の内容。
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「いったいなんの祝いなんだ。」。
遼治が切り返した。「父さんがリストラされるお祝いだよ。三十年間ごくろうさま。」。
亜紀子がワインをとりに台所にむかった。そうだ、三十年だと晃一は思った。そのあいだに亜紀子と結婚して、遼治が生まれた。仕事は懸命にがんばったが、さして出世はしなかった。会社には要領のいい人間もいたし、要領の悪い人間もいた。自分はどちらかといえば、悪いほうだったのだろう。そのあいだに何回も景気の波がやってきて去っていった。百年に一度の危機がなんだというのだろう。どんな波もいつかは必ずすぎ去っていく。普通の人間は波の面に顔をだし、ただ息をしてしのげばいいのだ。必ずこの波も越えられる。
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グッと来たのは「ツルバラの門」と「銀のデート」、「出発」という作品。又、自分が若かりし頃の記憶と重ね合わせてしまったのは「四月の送別会」という作品だった。
総合評価は星3.5個。
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鬱病の妻を自殺で失い、幼い息子を一人で育てるサラリーマン。家族を捨て、後悔の念に苛まれるラジオ・ディレクター。定年退職後、新たにタクシー運転手を目指す元トラック運転手。前触れも無く、彼から別れを切り出されたキャリアウーマン。不況下で中小の広告代理店に入社し、将来に不安を覚える新入社員。単調な日々の仕事にうんざりする契約社員・・・。彼等の平凡な日常に舞い降りた小さな奇跡とは?
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12の短編は2006年末から今春に掛けて、月刊誌に連載された物。後書きで石田氏が「時代の傾斜は険しくなり、いつのまにか絶壁が目のまえにそそり立っています。誰もが手と足を踏ん張って、なんとか斜面にかじりつく。そうしなければ滑り台のように安全ネットのない奈落に転げ落ちていく。そんな時代がやってきたのです。」と記している様に、雇用状況が著しく変化(悪化)して行く中で生まれた作品と言える。そんな時代の荒波の中で懊悩する人々の姿を描き乍ら、最後には「読者の乾いた心に潤いを与えてくれる結末」を用意しているのは、弱い立場の人を柔らかい視線で見詰める石田氏ならではと感じる。
特に印象に残った文章を挙げるならば、「出発」という短編に記された以下の内容。
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「いったいなんの祝いなんだ。」。
遼治が切り返した。「父さんがリストラされるお祝いだよ。三十年間ごくろうさま。」。
亜紀子がワインをとりに台所にむかった。そうだ、三十年だと晃一は思った。そのあいだに亜紀子と結婚して、遼治が生まれた。仕事は懸命にがんばったが、さして出世はしなかった。会社には要領のいい人間もいたし、要領の悪い人間もいた。自分はどちらかといえば、悪いほうだったのだろう。そのあいだに何回も景気の波がやってきて去っていった。百年に一度の危機がなんだというのだろう。どんな波もいつかは必ずすぎ去っていく。普通の人間は波の面に顔をだし、ただ息をしてしのげばいいのだ。必ずこの波も越えられる。
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グッと来たのは「ツルバラの門」と「銀のデート」、「出発」という作品。又、自分が若かりし頃の記憶と重ね合わせてしまったのは「四月の送別会」という作品だった。
総合評価は星3.5個。
「僕に足りないのは靴下じゃなく、君なんだ。」“平成のプレイボーイ”こと石田純一氏が口にした言葉。臭いって言えば、これ以上臭い言葉は無い。でも彼の人間性なのか、「又性懲りも無く、ロマンチックな事言ってるなあ。」とニヤッと笑ってしまう。石田衣良氏も、彼と似た感じがします。普通の人が使えば臭い文章でも、彼の場合だと“べたついた”感じがしない。サラッと自然体で書き上げているって感じがするんです。
「傷つきやすくなった世界で」と「愛がいない部屋」は自分もイマイチ感を覚えました。特に後者は。「40翼ふたたび」は当ブログでもレビューを書いたのですが(http://blog.goo.ne.jp/giants-55/e/03276782d7219cd29ce3274b4bdb2fd0)、「まあまあ良かった。」という感じ。