当ブログで過去に何度も書いている事だけれど、手塚治虫氏は敬愛する人物の1人。彼が描き上げた作品数は「全604作」とも言われるが、入手出来る範囲では、恐らく全部読んでいる。其れ等の作品から学んだ事は数多在り、我が人格形成に大きな影響を与えたのは間違い無い。自分にとって彼は、漫画家という存在に留まらず、偉大なクリエーターで在り、思想家で在ると捉えている。
「マイナーな漫画だけど好き」、「『人間が生き物の生き死にを自由にしようなんて、おこがましいとは思わんかね。』」、「手塚治虫作品ベスト10」、「安達が原」、そして「一番結末が衝撃的だった手塚作品」等、手塚氏に関する記事をアップして来たが、今日は彼の代表作の1つで在り、個人的には「ベスト10の9位」とした「『火の鳥』シリーズ」を取り上げる。
「『火の鳥』シリーズ」の第1弾は、漫画雑誌「漫画少年」の「1954年7月号~1955年5月号」に連載された「黎明編(漫画少年版)」で、此れは未完に終わっている。以降、連載誌を変え、全部で「18編」が存在する。尚、此の他に、手塚氏自身が登場するエッセー風短編漫画「休憩 INTERMISSION」(初出:「COM」が存在するけれど、「飽く迄もエッセー。」という事で、18編からは外す事にした。全18編を、発表された順番に記すと、次の通り。
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[『火の鳥』シリーズ 全18編』]
① 「黎明編(漫画少年版)」(初出:「漫画少年」)
② 「エジプト編」(初出:「少女クラブ」)
③ 「ギリシャ編」(初出:「少女クラブ」)
④ 「ローマ編」(初出:「少女クラブ」)
⑤ 「黎明編(COM版)」(初出「COM」)
⑥ 「未来編」(初出:「COM」)
⑦ 「ヤマト編」(初出:「COM」)
⑧ 「宇宙編」(初出:「COM」)
⑨ 「鳳凰編」(初出:「COM」)
⑩ 「復活編」(初出:「COM」)
⑪ 「羽衣編」(初出:「COM」)
⑫ 「望郷編(COM版)」(初出:「COM」)
⑬ 「乱世編(COM版)」(初出:「COM」)
⑭ 「望郷編(マンガ少年版)」(初出:「マンガ少年」)
⑮ 「乱世編(マンガ少年版)」(初出:「マンガ少年」)
⑯ 「生命編」(初出:「マンガ少年」)
⑰ 「異形編」(初出:「マンガ少年」)
⑱ 「太陽編」(初出:「野生時代」)
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描かれた時代で言えば、"最古"は「エジプト編」で紀元前10世紀頃、そして"最も先"は西暦3404年の世界と描いた「未来編」。詰まり、時間軸で考えた場合、「『火の鳥』シリーズ」は「エジプト編」で始まり、「未来編」が結末と言えるだろう。
時空を超えて存在する超生命体・火の鳥は、「其の血を飲めば、不老不死に成れる。」と言われている。そんな火の鳥を"狂言回し"に、過去と未来を交互に描き乍ら、「生と死」や「輪廻転生」という哲学的な問題を深く抉っているのが「『火の鳥』シリーズ」だ。
古今東西、人類の歴史で"戦い"が絶えないのは、偏に"人間のエゴ"が在るから。自身の利益のみを追い求めた権力者が、最後に行き着くのが「己が不老不死」と言って良く、人類にとって"究極のテーマ"なのだろう。
「『火の鳥』シリーズ」全18編の中から、マイ・ランキングを記す。
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[「『火の鳥』シリーズ」のマイ・ランキング]
1位: 「未来編」
2位: 「鳳凰編」
3位: 「太陽編」
4位: 「復活編」
5位: 「黎明編(漫画少年版&COM版)」
6位: 「異形編」
7位: 「ヤマト編」
8位: 「宇宙編」
9位: 「望郷編(COM版&マンガ少年版)」
10位:「生命編」
11位:「乱世編(COM版&マンガ少年版)」
12位:「羽衣編」
13位:「エジプト編」 / 「ギリシャ編」 / 「ローマ編」
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2位から6位に関しては、順位付けが難航した。何れも"マイナス要素"を見付け難く、無理無理に順位を付けたという感じだ。でも、1位は断トツで「未来編」。他作品を追随させない圧倒的なパワー有した作品で、「未来編」だけでも「生と死」に付いて十二分に考えさせられる事だろう。
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「火の鳥 未来編」
西暦3404年、人類は25世紀を頂点として衰退期に入り、文明も芸術も進歩が少しずつ停止。人々は昔の生活や服装に許り憧れを抱く様に成り、既に30世紀には、文明は21世紀頃のレヴェル迄逆戻りしていた。地球及び人類は滅亡の淵に在り、他の惑星に建設した植民地を放棄し、地上は人間は疎か、生物が殆ど住めない世界と成っていた。人類は世界の5ヶ所に作った地下都市"永遠の都"事、メガロポリス「レングード」(旧ソ連)、「ピンキング」(中国)、「ユーオーク」(アメリカ)、「ルマルエーズ」(フランス)、そして「ヤマト」(日本)に移り住み、超巨大コンピューターに自らの支配を委ねていた。然し、其のコンピューターも完璧な存在では無く、コンピューター同士で争いが起き、全体主義体制を採る「ヤマト」と自由主義体制の「レングード」の対立から、核戦争が勃発した。其の結果、対立関係とは無縁だった残りの3都市迄もが何故か超水爆で爆発し、地球上に5つ在った全ての地下都市が消滅。人類が滅亡してしまう。生き残ったのはシェルターに居た山之辺マサト、猿田、ロック、タマミのみだった。其の後、マサトの意識は体外離脱し、火の鳥により、「宇宙の構造と、人類の滅亡が生命の歴史のリセットを目的として実行された。」事を告げられ、生命を復活させ、正しい道に導く為に"永遠の命"を授かる。他の者が次々と放射能の作用や寿命が尽きて死んで行く中で、マサトだけは永久に死ねない体の儘苦しみ、悶え乍ら生き続ける。途方も無い時間をたった1人で過ごす中で、マサトは地球の生命の復活を追究し続け、軈て1つの答えに辿り着く。
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自分自身も、不老不死という物に憧れた時期が在る。「全く老いる事無く、絶対に死なないって、凄く良いな。」と。でも、「自身の肉体は朽ち果てても、意識だけはずっと生き続けているが、自分以外の"生物"は全て絶滅してしまった中、たった1人で存在し続けなければいけないマサトの孤独と絶望。」を此の作品で思い知らされ、考えがすっかり変わった。
以前、盟友・小沢昭一氏との思い出を語っていた黒柳徹子さんが、「『(自分は)百歳迄生きる。』と言ったら、小沢さんに『長生きをすると、周りに誰も居なくなるよ。』と言われて、ワンワン泣いた事が在るんです。でも今日、其れは熟そうだなと思いました。もう小沢さんも居ないんだなと。1日1日を、大事に生きて行くしか無いわね。」と言ったのが、非常に印象に残っている。「不老不死と成っても、周りに誰も知り合いが居ないどころか、自分以外の生物が全く存在しない。」というのは、正に"生き地獄"だろう。