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「人生を遣り直したい。」と願ったネットカフェ難民の相沢仁(26歳)は、“闇の掲示板”で仲間を募り、応じて来た4人の男女と話す内に、金満家を襲撃する事になる。「金銭は奪うが、絶対に人は傷付けない。」というルールの下、遂に襲撃を決行。しかし決行中に仁は何者かに頭を殴られ、意識を失ってしまう。
野外に倒れた状態で目覚めた彼が見た物は、燃え盛る(襲撃した)屋敷と、帯の付いた1万円札の束だった。訳が判らない儘に現場から逃げ去った仁は其の後の報道で、屋敷内から3人の他殺体が発見された事を知る。「俺は仲間に填められたのか?此の儘では、自分が3人を殺害した罪で死刑になってしまう。」と、得体の知れない仲間を彼は自力で捜し始めるが・・・。
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薬丸岳氏の「ハードラック」は、様々な悪意で満ち溢れた小説だ。人の弱みに付け込み、自らの欲望を満たす輩が次から次へと登場する。「人間の本質」を赤裸々に描いているとも言えるが、読んでいて爽快感は全く無い。
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「天使のナイフ」
テーマ: 少年法。
総合評価: 星4.5個。
「闇の底」
テーマ: 性犯罪。
総合評価: 星4.5個。
「虚夢」
テーマ: 刑法第39条(心神喪失者、又は心神耗弱者の犯罪。)。
総合評価: 星4つ。
「悪党」
テーマ: 犯罪者の処罰と更生。
総合評価: 星4つ。
「刑事のまなざし」
テーマ: 親子問題等。
総合評価: 星3.5個。
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初の短編集「刑事のまなざし」以外は、総合評価が星4つを下回る事が無かった薬丸作品。社会の暗部をテーマにし、読み手に色々考えさせる筆致力は相当な物が在る。今回の「ハードラック」は、「闇社会」と「下層社会」をテーマにしている。
「社会問題の提起」という意味では評価出来るし、「次の展開が気になるストーリー」というのも薬丸氏の筆致力の高さ故だろう。だが「ミステリー」という観点からすると、「真犯人が誰なのか?」は割合早い段階で判ってしまう弱さが在る。少なくとも“ミステリーを読み込んでいる人間”ならば、「或る人物に関する描写で、其の正体を見破るのは容易。」と思うから。
総合評価は星3つ。