8年前の記事でも書いたが、漫画「夕焼けの詩-三丁目の夕日」シリーズが大好き。初めて読んだのは35年位前になると思うが、昭和30年代をメインに描いた此の作品は、自分が幼少期に見聞していた風景や事柄に触れられるので、読んでいて何とも心が和むのだ。
2005年に「ALWAYS 三丁目の夕日」というタイトルで初めて実写映画化され、2007年には第2弾「ALWAYS 続・三丁目の夕日」が公開。共に、期待していた以上の良い出来だった。そして今回観て来たのは、第3弾となる「ALWAYS 三丁目の夕日’64」。
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昭和39年。夕日町三丁目の住民達は皆、オリンピック開催を楽しみにしていた。鈴木オートの社長、則文(堤真一氏)も大きなカラーテレビを買い、近所の人を集めて得意顔だ。長男の一平(小清水一揮氏)のエレキギターには頭が痛いが、従業員の六子(堀北真希さん)は仕事の腕をめきめきと上げ、一家は順風満帆に見えた。
そんな時、六子に思いを寄せる男性が現れた。六子が火傷で治療を受けた病院の医師、菊池(森山未來氏)だ。しかし、菊池には悪い噂が在った。
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「カラーテレビ」なんて用語を見聞しても、若い人達なら「映像に色が付いてるなんて当たり前でしょ。」と思うかもしれない。父が新し物好きだった事も在り、「我が家のテレビ」という事で最初に記憶に在るのはカラーテレビだったけれど(相当に無理をして購入したとか。)、当時は未だ白黒テレビを視聴している家庭が少なくなかった様で、カラー映像の番組が始まると態々、「カラー放送」という表示が画面下に出たりしていたもの。
登場人物達が口にする当時の流行語や流行歌、使用している家電製品や車、街中の風景等々、堪らなく懐かしい。幼稚園の頃、住んでいた名古屋から祖母の住む東京に「1人で行け。」と父から言われ、心細い思いで乗った0系の新幹線が画面に登場した時には、当時の事を思い出してしまったし。(彼の頃は新幹線に乗る人を、大勢で見送ったりするのが普通の光景だったっけ。)
自分は3Dヴァージョンを見たのだけれど、“目に優しい3D効果”という感じだった。従来の3D作品は得てして「こんなにも3D効果を使ってまっせ!」といったどぎつい物が多く、見終わった後に目の疲れを感じたりしたが、此の作品では其れが無かったから。
前作の「ALWAYS 続・三丁目の夕日」は昭和34年の東京を描いていたが、今回の作品は其れから5年後の昭和39年の東京を描いている。敗戦時に焼け野原だった東京が、19年の時を経てオリンピックを開催する迄になったという、「日本が最高に輝いていた時代」と言えるかもしれない。
唯、大きく復興を遂げた一方で、拝金主義的な風潮が広まりつつ在った時代で、三浦友和氏演じる宅間先生が口にした「幸せって、何なんでしょうなあ。」という言葉が印象的だった。
以前、「アホとしか思えない・・・」という記事で、ダウンタウンの松本人志氏が語った「だから哀愁世代というのは、僕で終わりじゃないかと思うんですよ。」という言葉を紹介した。彼の言う「哀愁世代」とは「人情喜劇が判る世代」を指し、「『笑い』には、絶対に『哀愁』が必要。」と彼は主張しているのだ。此の主張、自分は全く同感。「笑い」の間に「ホロリとさせる場面」を入れ込む事で、より大きな笑いを生み出す効果が在る。「ALWAYS 三丁目の夕日’64」では3度泣かされてしまったが(場内でも、啜り上げる声が結構聞こえた。)、ホロリトさせる場面が適度に在った事で、笑いの場面では大笑いしてしまった。此の減り張りが、実に良い。
過去の2作品も非常に良い出来だったけれど、今回の作品は更に上を行っている。総合評価は星4.5個。観て損は無い!
で、ここで紹介された東京オリンピックの頃をふと思い出しました。当時私は中学3年生で、修学旅行でオリンピックを見に行きましたよ。何処と何処の対戦だったか思い出せませんがサッカーを観戦した記憶があります。
何より、東京に向かう列車の中で、重量挙げの三宅が金メダルをとったというニュースが流れ、車内が歓声に包まれたのが鮮烈に記憶に残っています。
懐かしいなぁ。
「夕焼けの詩-三丁目の夕日」の作者は西岸良平氏ですが、同氏の絵のタッチは個性的ですよね。“常に横を向いている様な顔”の登場人物達等、絵柄を見ただけで「西岸作品だ!」と判ってしまうのは凄い。
「東京オリンピックでのサッカーの試合」と言えば、此の映画の中で笑えるシーンが在りました。夕日町三丁目の住人(オヤジ2人)が東京オリンピックのサッカーの試合を見た帰りのシーンが登場するのですが、「何故サッカーの試合を観に行ったか?」と言えば、「其れ位しか、取れるチケットが無かった。」と。「走り回ってるだけで、何だか良く判らなかったなあ。」という相方の振りに、「そうだよなあ。サッカーなんか、絶対に人気スポーツにならないよ。」的な答えを返し、互いに頷き合うのですが、今のサッカー人気を考えると笑える遣り取りでした。
私も当時を思い出して感慨に耽りました。
カラーテレビ、まだ当時は高嶺の花でしたね。
オリンピックに合わせて、新幹線の開業、高速道路網の拡充、と日本がどんどん変って行って、いい時代になったなと当時は思ってましたが、逆にその頃からこの映画に描かれていたような、隣近所の親しい付き合い、他人の子供でも自分の子のように可愛がる、といった人情味、心の触れ合い、が次第に希薄になって行った気がします。公団住宅がブームになったのもこの頃からでしょうか。
そう考えると、昭和30年代のラストイヤーでもあるこの年を舞台にした事で、もうこのシリーズは本作で終ってしまうのではないか、という気がして、余計涙が溢れてしまいました。
宅間先生の「幸せって何なんでしょうなあ」
この言葉、今の時代に生きる我々には、胸に突き刺さりますね。