ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「プロ野球をここまでダメにした9人」 Part1

2005年12月17日 | スポーツ関連
「プロ野球をここまでダメにした9人」という本を読破。著者である工藤健策氏は、ラジオ局のアナウンサー及びディレクターとして野球、ラグビー、サッカーを長年に亘って取材して来た人物なのだそうだが、プロ野球人気を凋落させた人物(組織)として次の9人を俎上に載せ、かなり辛辣に切り刻んでいる。*1

********************************
堀内恒夫  /  清原和博  /  渡邉恒雄  /  落合博満  /  野村克也  /  イチロー  /  久万俊二郎  /  プロ野球選手会  /  野球評論家
********************************

一人を除いては、取り上げられてもおかしくない人物ばかりという感じがする。特にプロ野球選手会に関しては、自分もずっと疑問を感持っており、過去に何度か記事にして来たので、我が意を得たりという思いが在る。他の人物に関しても、凡そ納得出来る部分が在るものの、かなり主観的に過ぎる様な記述も見られるし(偏重記事を多く書いている自分がそう思うのだから、かなりのものだと思う(笑)。)、肝心な御仁が抜け落ちているのではないか?という思い(落合博満氏の名前を挙げている理由の幾つかが、この御仁にも当て嵌まる様に思え、そうで在れば単に好き嫌いだけで選んでいる様な気がしなくもない。)も在った。

「一人を除いて」と但し書きしたのは、イチロー選手が含まれていたから。ファンの方には申し訳無いのだが、人間としての”鈴木一朗”は好きではない。必要以上に自分を作り過ぎている気がして、その事がどうにも鼻についてしまうからだ。でも、野球人としての”イチロー選手”は凄い存在として認めているし、敬意も持っている。だからこそ彼の名前が、プロ野球人気を凋落させた一人として挙げられていたのを意外に思ったのだが、内容を読み進めて行く中で納得出来てしまう部分がかなり在った。この本の中では、彼を”無機質な安打製造機”と記している。

********************************
・ 若いマジシャン達がトランプを用いたマジックを行い、人気を博している。トランプを使ったマジック自体は昔から在り、やっている内容も大差無いなのだが、彼等のそれは全く新しいマジックの様に見える。手を変え品を変えて、新しいマジックとして見せている訳で、観客はその手練手管に騙される事を楽しんでいる。

 ヒットの量産もそれに似ている。プロ野球ファンは、それ迄ヒット数が打者の価値を決めるものとは考えていなかった。最高のヒットは試合を決める一打で在り、その様な殊勲打にファンは感激し、記憶に焼き付ける。

 だから、3安打を打っても、勝利に結び付かなければ、ファンの記憶に焼き付けられる事は無く、単に「安打製造機」の呼び名を与えられるだけ。「あいつは肝心の所では打たない。」は、ファンが打者を非難する時の常套句になっている。

 「打者の記録」では、ヒット数ではなく、打率、打点、ホームランの打撃3部門の数字が価値を持つというのが、従来の野球ファンの打者観だったのだが、イチローはそんなファンの考えに挑戦する様に、唯只管ヒットを打ち続け、その圧倒的な多さから、ヒットの量自体に価値を付けて見せた。嘗ては「安打製造機」との呼び名が与えられるだけだった打撃スタイルに、新しい付加価値を与えたのだ。

 しかし、マジシャンが新しいトリックを次々に開発しない限り、飽きられてしまう様に、ヒットを打つだけでは、その価値を下げてしまう可能性は充分在る。現実に、メジャーの安打数記録保持者シスラー選手は84年間も忘れられていたのだから。


・ イチローのヒット量産が、日本で受けた理由は簡単だ。日本の野球ファンの大部分は、彼の属するシアトル・マリナーズのファンでは無いので、チームの勝利に貢献する一打よりも、単純に数を積み上げる事で達成出来る「メジャーリーグ記録」の方が判り易いからだ。


・ ブルーウェーブ時代に監督だった仰木彬氏は、単なるヒットの量産だけでは、ファンの関心を呼ばなくなる事実に気付いた。1996年、仰木監督はシーズン前半調子が出ないイチローの打順を、後半にはそれ迄の1番から3番に変更した。その理由を、彼は著書「勝てるには理由がある。」の中で次の様に説明している。

 単に得点力アップだけが狙いだった訳では在りません。3番を打たせる事で、イチローを本当の意味でのチームリーダーにしようという目論見が在ったのです。ランナーを返すのが3番の役割です。同じ1本のヒットでも、個人的なアベレージよりチームの勝利への貢献度にウエイトがかかります

 この打順変更で、「イチローは自信を取り戻し」、打率を3割5分6厘迄上げるが、仰木監督は翌年も彼に3番を打たせる事を企図する。これ迄はイチロー個人が持つ凄さ、魅力がチームの存在感を際立たせて来ましたが、イチローに3番を打たせ、今度はチームが勝つ事によって、イチローの存在感が際立つ事になる。こうなれば、文字通りイチローはチームの大黒柱です。

 この言葉を言い換えれば、「1番で幾らヒットを打ってもファンは感激しなくなったから、3番を打たす。其処で打てば、チームの勝利に貢献するから、又ファンから認められる。」という事になるが、では、「イチローは3番で成功し、勝利に寄与し、チームリーダーとなり、大黒柱となったか?」となると、答は全てノーだ。1997年、イチローを3番に据えたブルーウェーブは、6月に首位に上がり、8月中旬には2位ライオンズに4.5ゲーム差付けるものの、イチローが打てなくなり、其処から10日間を2勝5敗と失速して、ライオンズに抜かれてしまった。当時のチーム関係者はハッキリと「チームリーダーはイチローでは在りません。(1番を打っていた)田口壮です。」と語っていたし、選手も同様の反応を示していた。

 結局、イチローは唯ヒットを打つだけのポジションなら良いが、それ以上を(ファンや首脳陣から)要求されるのは苦手という事だ。


・ ブルーウェーブ時代のイチローが、ファンを呼べなかったもう一つの理由は、彼のプロ野球選手としての人間性だ。彼はファンや報道関係者を嫌っている様に見える。理由は、彼がファンの期待に応えられないからだ。殊勲打を打たなければならないというプレッシャーを嫌い、際限の無いファンの期待を重荷と感じているからだろう。この性格の為、彼はファンを遠ざける様になった。

 渡米した後の彼の常套句は、「こちらのファンは野球を良く知っている。まずいプレーをすれば、直ぐブーイングされ、街を歩く事さえ出来ない雰囲気になる。ところが、良いプレーをすれば、(それが判って)直ぐに反応が在る。」というもの。詰まり、「日本のファンは野球を知らない。」と言うのだ。

 しかし、日米のファンの野球知識の分野にそれぞれ偏りが在るにしても、知識量に差が在るとは思えない。イチローが気に入らないというのは、ファンの感情の表し方の違いで、たまたまイチローにはアメリカ風が合ったに過ぎない。(イチロー自身の感情表現は日本風だが。)

 では、マリナーズのファンとイチローとは合っているのかといえば、日本語の判らないマリナーズのファンは、彼の言葉から本質を見抜く事が無い為、実際の所、彼が何を考えているのか判らないだけ。イチローは「こちらのファンは野球を良く知っている。」と”錯覚”しているだけで、それを、さも日本のファンが悪いという言い方をするのは、日本ではファンの期待に応えられなかったというコンプレックスによるものだろう。

 
 ・ 彼のインタビューからは、報道関係者、ひいてはファンを小馬鹿にした様な言動がしばしば見られる。確かに不勉強なマスコミにも問題は在るが、彼の場合は自分が答え易い様にヒントを与えながら質問してくれるマスコミを望んでいるので在って、それが出来る質問者以外を「こんなに研究している自分をインタビューするのに、打撃に付いて何の勉強もして来ない。」と排除しているだけではないか。自分の未熟さをカバーする質問者を、良いマスコミと考えているのだ。

 メジャーリーグを取材する記者も、「ファンがスター選手に付いて知りたいのは、日常や家庭生活に付いてだ。」と自嘲気味に話していたが、ファンが何時も高度なバッティング談義を望んでいる訳ではないのは日米も同じ。例え、詰まらない質問だと考えても、ファンはインタビューに答える態度だけで、選手の本質(彼が持っている技の奥深さ迄。)見抜いてしまう力を持っているから、ファンやインタビュアーを馬鹿にしてはいけないのだ。


 ・ 結局、イチローはその性格のままにプロ野球界を生き、先人達が作り、実らせたプロ野球の果実を、日米を股にかけて、唯享受しているだけの様に見える。果実享受型選手の増加が、プロ野球をファンから遊離させた最大の要因なのだが、イチローは未だその事実に気付いていない。
********************************

コメント    この記事についてブログを書く
« さらば、仰木マジック | トップ | 「プロ野球をここまでダメに... »