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相続鑑定士の三津木六兵(みつぎ ろっぺい)の肩には、人面瘡が寄生している。毒舌乍ら頭脳明晰な其の怪異を、六兵は“ジンさん”と呼び、頼れる友人として来た。
或る日、六兵が派遣されたのは長崎に在る島、通称「人面島」。村長の鴇川行平(ときかわ ゆきひら)が死亡した為、財産の鑑定を行う。島の歴史を聞いた六兵は驚く。「此処には今も隠れキリシタンが住み、更に平戸藩が溜め込んだ財宝が埋蔵されている。」という伝説が在るのだ。
一方、鴇川家にも複雑な事情が在った。行平には前妻との間に長男・匠太郎(しょうたろう)と後妻との間に次男・範次郎(はんじろう)が居る。だが、2人には過去に女性を巡る事件が在り、今も啀み合う仲。更に前妻の父は、島民が帰依する神社の宮司、後妻の父は主要産業を統べる漁業組合長で在る。
そんな中、宮司は孫の匠太郎に職を継がせるべく、儀式を行う。深夜迄祝詞を上げる声が途切れたと思いきや、密室となった祈祷所で死んでいる匠太郎が発見された。ジンさんは言う。「家族間の争いは醜ければ醜い程、派手なら派手な程面白い。嗚呼、わくわくするなあ。」。戸惑い乍らも六兵は調査を進めるが、第2の殺人事件が起きて・・・。
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2010年に小説「さよならドビュッシー」で文壇デビューして以降、60冊を超える作品を上梓している多作の作家・中山七里氏。漫画家・手塚治虫氏は生前、「後40年位描きますよ。アイデアだけは、バーゲン・セールしても良い位在るんだ。」と言っていたが、中山氏もそんな感じなのかも。凡人の自分からすると、羨ましい限りだ。そんな中山氏の小説「人面島」を読了。
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人面瘡:妖怪・奇病の一種。「身体の一部等に付いた傷が化膿し、人の顔の様な物が出来、話をしたり、物を食べたりする。」とされる架空の病気。
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人面瘡という物の存在を初めて知ったのは、手塚氏の漫画「ブラック・ジャック」の第52話「人面瘡」によってだった。「人面島」の主人公・三津木六兵の右肩には人面瘡が在り、六兵は彼を“ジンさん”と呼んでいる。何故か事件に巻き込まれてしまう六平は、毒舌乍ら頭脳明晰なジンさんのアドヴァイスを受け、真相を究明するというストーリー。
人面瘡という怪異な存在を登場させ、因習に縛られた島で次々と発生する連続殺人事件を描き、そして舞台の1つとして「八つ墓村」に登場する様な鍾乳洞が用意されている。横溝正史氏の「金田一耕助シリーズ」を思い起こさせる雰囲気が在る。(「人面島」の場合、全体的にコミカルさは在るけれど。)
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『(前略)どうせお前の事だから、日本人は礼儀正しいからリンチは有り得ないとか思ってるんだろ。それは、お前の、か・ん・ち・が・い。礼儀正しさの裏には大概陰湿さが同居しているもんだ。手前ェの顔も見えない、素性も分からない匿名の下でなら日本人はいくらでも残酷になれる。その陰湿さが他人への攻撃に向けられた時の凄まじさを想像したことがあるか。』。
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ミステリーで真犯人を推理する際、「最も真犯人らしく無い人物を疑え。」というのは常識。そういう観点から推理すれば、真犯人を当てるのはそう難しく無いだろう。唯、動機の面が「う~ん・・・。」という感じ。「そんな動機で、人を殺すか?」と感じてしまうのだ。「普通じゃあ考えられない様な動機で、人を殺してしまう事が在る現代。」だから、「無い事は無い。」のだろうが。
「金田一耕助シリーズ」が好きなので、そういう“匂い”が感じられるのは良いのだけれど、上記した様に犯行動機がピンと来ないし、読後感も良く無い。総合評価は、星3つとする。