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メディアは疎か、関係者の前にも一切姿を見せない前衛芸術家・川田無名(かわた むめい)。彼は、唯一繋がりの在るギャラリー経営者の永井唯子(ながい ゆいこ)経由で、作品を発表し続けている。
或る日、唯子は、無名が1959年に描いたという作品を、手の内から出して来る。来歴等は完全に伏せられ、類似作が約6億円で落札された程の価値を持つ幻の作品だ。然し、唯子は突然、何者かに殺されてしまう。
アシスタントの佐和子(さわこ)は、唯子を殺した犯人、無名の居場所、そして今になって作品が運び出された理由を探るべく、動き出す。
幻の作品に記された番号から無名の意図に気付き、軈て無名が徹底して姿を現さない理由を知る。
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第14回(2015年)「『このミステリーがすごい!』大賞」で大賞を受賞した小説「神の値段」(著者:一色さゆりさん)は、同賞受賞作では“初の美術ミステリー”で在る。
人前には一切姿を見せない世界的な現代美術家・川田無名の作品を一手に引き受ける唯子が絞殺され、無名は其の有力容疑者として警察から追われる事に。然し、彼の行方は一向に判らず、「無名は、疾っくの昔に亡くなっているのではないか。」という声すら上がる。誰が、何の為に、唯子を殺害したのか?唯子が殺される少し前、無名の幻の作品が突然表に出た事は、事件と何か関係が在るのか?
最終選考委員の面々が選評で記している様に、美術界に関する描写は微に入り細を穿っており、門外漢の自分としては興味深かった。著者の一色さんは東京芸術大学美術学部芸術学科を卒業後、ギャラリー勤務を経た後、現在は某美術館に勤務されているとか。美術界に関する描写が微に入り細を穿っているのも当然だ。
其の一方で、“謎解きの面”では粗さを感じてしまう。犯人に辿り着く経緯が稍雑だし、登場する人物達の関係性も、判った様で良く判らない部分が在ったし。「此れだけ様々な“網”が張られ捲った現代で、1人の人間がこんなにも完璧に姿を消せるだろうか?」という疑問も残る。
美術界の裏側を知るには面白い作品だが、ミステリーとしては今一つ。総合評価は、星3つとさせて貰う。