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榊信一(さかき・しんいち)は大学時代に同郷の恋人・山口澄乃(やまぐち・すみの)を絞め殺し掛け、自分の中に眠る「全ての女に向けられた殺人願望」に気付く。
或る日、自分が病に冒され、余命僅かと知った彼は、欲望に忠実に生きる事を決意する。其れが、連続殺人の始まりだった。
元恋人・澄乃だけが知る、信一の呪わしい過去の秘密。連続殺人事件の犯人を追う刑事・蒼井凌(あおい・りょう)にも病が襲い掛かり、死へのカウントダウンが鳴り響く。そして、事件は予想もしない方向へ・・・。
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「少年法」や「刑法第39条(心神喪失及び心神耗弱)」等、「社会や人間の心の中に存在する様々な問題」をテーマに据えた小説が多い作家・薬丸岳氏。冒頭に記した梗概は、今春に上梓された同氏の小説「死命」。
榊信一と蒼井凌。「連続殺人事件の犯人」と「連続殺人事件の犯人を追う刑事」という全く反対の立場で、年齢も大分違う2人だが、「同時期に末期癌、其れも同じ胃癌で、『残り少ない余命』の宣告を受けた。」とおう共通点を有する。
「死」という物に対峙しなければならなくなった2人だが、「余命」を知った事で「人を殺したいという昔からの願望を果たし、『最大の快楽を味わえた。』と嘯く者。」と、「死に対する恐怖を感じ乍ら、自らが背負って来た“重い約束”も在って、『何とか生きている間に、犯人を捕まえたい。』と足掻く者。」という、余りに異なるスタンスが印象的。
「死命」とは「死ぬべき命。」、又は「死ぬか生きるかの急所。」という意味だけれど、此の小説のタイトルの「死命」には、同じ音読みの「使命」を作者は重ね合わせている様に思う。即ち「死命」とは「命を懸けても成し遂げなければならない事」で在り、信一と凌の「死命」が何なのかが、ストーリーを追う中で次第に浮き上がって来る。
「警察小説」としては決して悪い出来では無いのだが、「『社会や人間の心の中に存在する様々な問題』をテーマとし、問題提起して来た作家。」の作品としては、ハッキリ言って凡庸な内容。薄っぺらくて、深みが無く、結末も予想通りという感じ。
総合評価は、星3つが妥当か。