昨夏、味の素の工場見学に参加した際、驚かされた事が在る。「ほんだし」の製造工場に足を踏み入れた瞬間、鰹節の濃厚な香りが鼻腔を擽った。「良い匂いだなあ。」と食欲がそそられ、ゴクリと唾を飲み込んでしまったのだが、直ぐ後ろを歩いていた20代前半の女性2人の素っ頓狂な叫び声で現実に引き戻される事に。
「臭っ!此の匂いは何なの?」、「気持ち悪くなりそうだよね。」等々。「鰹節の匂いを、臭いと感じるんだ。」と驚いてしまったのだが、前を歩いていた高齢の御夫婦も同様だった様で、苦笑いを浮かべつつ「今の子は鰹節を直接匂ったりする機会も無いだろうから、臭いとしか感じないんでしょうね。」と口にしたのだった。
其の話を年上の知人にした所、「私も似た様な経験をした。」と言う。彼女が東北地方を旅した際、一軒の古民家を見学。三和土に足を踏み入れると、建築材として使用されている檜の匂いが漂って来た。「良い匂いだなあ。」と思わず深呼吸したが、同じツアーに参加していた若いカップルが「うわっ、気持ち悪い匂い!」、「吐きそうになるね。」等々と口にしたそうだ。他のツアー参加者(其の殆どは中高年。)は「えっ!?」と驚きや当惑の表情を浮かべていたという事だが、もし自分が同じ場に居たならば、矢張り驚いてしまったと思う。鰹節や檜の匂いを「芳しい。」と思いこそすれ、「嫌な匂い。」とか「気持ち悪い。」とは思い様が無いから。
出くわした若い彼等が「たまたま鰹節や檜の匂いが嫌いだった。」のか?其れとも「鰹節や檜の匂いに触れる機会が無い(乃至は少ない)という事で、『嫌な匂い。』と感じてしまう若い人達が多い。」のか?
最近は余り居なくなった様に感じますが、昔は「強烈に甘ったるい御菓子系の匂いの香水」をプンプンさせた人がチラホラ居ました。流石に「勘弁してくれ!」と閉口させられましたね。
20代の頃、「加齢臭」なる言葉を見聞して笑っていた自分が、今や其の加齢臭を放つ年代になっている現実・・・まさかそんな日が来るとは。
若い頃は完璧な「洋菓子派」だったのに、中年という年代に入った辺りから「和菓子派」へと軸足が移って行きました。洋菓子が嫌いになった訳では無く、今でも洋菓子(シュークリームやプリン等)は食べるけれど、食後の“重さ”から和菓子を食べる頻度が高くなったという感じ。松前漬けや筍等も昔は好きじゃなかったけれど、今では好物に。
加齢と共に食べ物の好みが変わる様に、「匂いの好み」も変わるのかもしれません。木々の匂い等、自然界から発せられる匂いが、昔以上に心地良く感じる様になりましたし。
日頃無味無臭の空間にいればそう感じるかと。
確かに良い香水の香りと糞便臭は成分的に紙一重と言う話は聞いたことがあります。
今時の若い子は何の事やらサッパリ判らないでしょうが、昔は「田舎の香水」なんて表現が在りましたね。肥溜め(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%82%A5%E6%BA%9C%E3%82%81)や堆肥等の匂いを総称した物ですが、当時は臭くて堪らなかった彼の匂いも、今となっては懐かしく感じたりもする。
ジャコウジカの分泌物は「麝香」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BA%9D%E9%A6%99)として香水に用いられているし、人間の腋臭はフェロモンを含んでいるそうですし、「臭い!」と嫌悪される物で在っても、意外に其れが他者を魅了する物にも変わり得る不思議さ。
都会の人工的な、ある意味無臭に近い環境で暮らしていると、田舎のさまざまな自然の香りも苦痛に感じるのかな。
動物由来の香水は本来糞便臭で、それをかなり希釈することで人間にも心地よい香りにしていると聞いたことがありますが・・・