***************************
閉店後のラーメン店で、店主・秋山正一(あきやま・しょういち)が何者かに暴行され、そして死亡した。通報により駆け付けた救急隊員に対し秋山は、「約束を守れなくて済まない。」という言葉を残し、息絶えてしまう。
通報した若者を容疑者と見做して始まった捜査は、早期解決が確実視されていた筈だったが・・・。
***************************
第51回(2005年)江戸川乱歩賞を受賞した小説「天使のナイフ」で、文壇デビューを果たした薬丸岳氏。冒頭に記した梗概は、昨年10月に刊行された同氏の「逃走」に付いて。
秋山正一なる人物を殺害してしまった男が、直後に秋山の自宅を訪れ、“探し物”をするシーンから物語は始まる。そして或る写真を見付けた彼は、或る目的を果たす為、逃走する事を決意する。
捜査が進む中で、登場人物達の“過去”が次々に明らかになって行くのだが、「知らない事柄が、然も既に明らかにしているかの様な感じで表記されている箇所。」が幾つか在り、「どういう事!?」と面喰らってしまった。前に戻って確認するも、矢張り其の事に付いては全く触れられていない。仕方が無いので読み進めると、以降に其の事が詳しく記されているという形。
「メロスは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の王を除かなければならぬと決意した。」というのは、太宰治の「走れメロス」の有名過ぎる出出しだが、「『メロスは激怒した。』って、何に対して?「『かの邪知暴虐の王』って誰?」と、読者は次々に疑問を持ってしまう。後になって、「そういう事か。」と判る訳だが、同じ手法を使っているにしても、「逃走」の場合は、判る迄が間延びしている。
「犯行動機」も「(男の)逃走理由」も判る様で、実際には良く判らない。御都合主義な展開だし、ストーリー的にも大して意外性が無い。あらゆる点で、「だから何なの?」という感じなのだ。
初期の薬丸作品、具体的に言えば第4作の「悪党」迄は、深く考えさせられ、心に残る物許りだったが、其れ以降は“低迷”している感が在る。今回の「逃走」は、非常に読み易いものの、中身が薄過ぎる。
総合評価は、星2.5個。