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弟・矢神明人(やがみ あきと)が失踪した。彼の妻・楓(かえで)は、明るく強かで、魅力的な女性だった。楓は夫の失踪の原因を探る為、資産家で在る弟の家族に近付く。兄で在る手島伯朗(てしま はくろう)は、楓に頼まれ協力するが、時が経てば経つ程、彼女に惹かれて行く。
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東野圭吾氏の小説「危険なビーナス」は、失踪した弟(実母が、再婚相手との間に産んだ子。伯郎にとっては異父弟。)を探す過程で、“自分の過去”と直面しなければならなくなった兄の姿を描いている。
13年前の記事「賞に縁遠い男“東野圭吾”」でも触れた様に、自分は東野氏が文壇デビューした頃からの大ファン。敬愛する手塚治虫氏の作品は、「ハッピー・エンドで終らず、読後に何とも言えない物悲しさや不条理感が漂う物が多い。」だけれど、其れが故に内容がずっと心に刻み込まれる。「魔球」や「手紙」等、東野作品にもそういう感じの物が多く、ずっと読み続けている。
「危険なビーナス」というタイトルから想像していた展開は、見事に裏切られた。真犯人を含め、意外な設定には驚かされる。でも、全体的に言えば、自分が好きな東野作品では無い。意外性は在るのだけれど、設定が余りにも御都合主義で、登場人物のキャラクターに深みが感じられないから。
「ハッピー・エンドで終らず、読後に何とも言えない物悲しさや不条理感が漂うタイプの作品。」では無いし、だからと言って「天下一大五郎シリーズ」等の様なコミカルさを重視した作品でも無い。「中途半端にコミカルな、何方付かずの作品。」という感じで、東野作品としては駄作の部類に入るだろう。
総合評価は、星2つとする。