昨夕行われたドラフト会議に関し、「大瀬良大地投手の交渉権を、カープが獲得出来て本当に良かった。彼を無名の頃からずっと追い続け、当たり籤を引いた田村恵スカウトの涙には、此方も貰い泣きしてしまったし。」というのと、「原辰徳監督は、相変わらず籤運が悪いなあ。」という思いを抱きつつ、本題に入らせて貰う。
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1年前、1人の少女が殺された。嘗てはコメンテーターとして頻繁にニュース番組に出演していた、小説家・山野辺遼(やまのべ りょう)の10歳の娘・菜摘(なつみ)だ。
犯人として逮捕されたのは、近所に住む27歳の男・本城崇(ほんじょう たかし)。良心や他人に対する思い遣りが完全欠如し、他人を苦しめる事に喜びを感じるというサイコパス気質を有する彼は、山野辺夫妻を徹底的に苦しめる目的で“意図的に”逮捕され、そして証拠不充分により一審で無罪判決を受け、釈放される。
山野辺夫妻に対し、嘲りの言動を続ける本城。人生を賭け、娘の仇を討つ決心を固めた2人の前に、死神の千葉(ちば)が現れ・・・。
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伊坂幸太郎氏の小説「死神の浮力」は、8年前に刊行された「死神の精度」の続編。自分は「死神の精度」を未読の儘、「死神の浮力」を読み始めた。
「対象の人間を7日間調査し、其の死に付いて可否の判定を下す事を生業にしている死神。」の千葉が主人公なのだが、此の千葉のキャラクターが何ともエキセントリック。音楽を何よりも愛する彼は、数多の年数を生き続けている事も在り、其の言動はピントがずれ捲っている。サイコパスの本城とは“別の意味”で、「他者の感情」に思いを馳せる部分が全く無い様な感じで、“悪意の塊”の本城と併せ、読んでいて何度もイラッとさせられてしまった。
「非現実的な世界観」や「格言の多用」、「音楽に関する描写の多さ」等、伊坂作品の特徴は健在。音楽に余り興味が無いという事も在るが、格言の多用に辟易としてしまう事も在り、正直言って伊坂作品とは余り肌合いが良くないのだけれど、其れでも新作が刊行されれば手に取ってしまうのだから、不思議な作家で在る。
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人間は平和や安静、正気と呼ぶ状態を一応好ましいものとしているにもかかわらず、それが長く続くと、飽きて憂鬱になったり、倦怠を催す、と。平和がいいね、と判っているのに、平和に飽きる。
「ほとんどの争いは、そこから起きるんじゃないのか。」。「そこから?」。それはまた乱暴な結論に思えた。「穏やかな日常は退屈を生む。その退屈さが、不安を生み出す。『このままでいいのか?』とな。何も起きていないというのに集団は怯えはじめる。もしくは、退屈が起きる。どちらにせよ、起きるのは抗争や戦争だ。」。「そして、それが終わるとまた、穏やかに。」。「その通りだ。やはり、人間は揺れながら繰り返すだけだ。」。
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今回の作品を読み終えて思ったのは、「伊坂作品は小説と言うよりも、哲学書なんだろうな。」という事。格言を多用する事で読者に色々考えさせ、最初は見えなかった別の面に気付かせて行く。其の作業にかったるさを感じ無くも無いが、別の面に気付くと「成る程。」と唸ってしまう。
総合評価は、星3つとする。
御笑いコンビのアンジャッシュ(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5)のネタに「勘違いネタ(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5#.E5.8B.98.E9.81.95.E3.81.84.E3.83.8D.E3.82.BF)」というのが在ります。御互いが話している内容を勘違いし捲り、「おかしいなあ。」と思いつつも、上手い具合に話が進んでしまう、大好きなネタ。千葉さんのピントのずれは其れに似た様な感じが在り、「喩え」を文字通り捉えてしまう所は、ニヤッとしてしまいました。
「本城は死に、遼は生き残る。」という展開を予想していたので、全く異なる結末にはスッキリしない物が在ったのですが、ああいう形で生き残った本城は、死ぬよりも辛い事では在りますね。