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植物状態になった患者と、コミュニケートする為の医療器具「SCインターフェース」が開発された日本。少女漫画家の和淳美(かず・あつみ)は、自殺未遂を起こして数年間意識不明に陥っている弟の浩市と対話を続けている。「何故自殺を図ったのか?」という淳美の問い掛けに、浩市は答える事無く月日は過ぎていた。そんな或る日、謎の女性から掛かって来た電話によって、淳美の周囲で不可思議な出来事が起こり始める。
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昨年、第9回「『このミステリーがすごい!』大賞」で大賞を受賞した「完全なる首長竜の日」。作者の乾緑郎氏は鍼灸師の仕事をする傍ら、劇作家として複数の劇団に脚本を書き下ろして来たという人物。大賞受賞は満場一致で瞬時に決まったと言うし、矢張り昨年に別作品(「忍び外伝」)で第2回「朝日時代小説大賞」を受賞した事も在って、「大型新人登場!」と話題に。
「完全なる首長竜の日(A Perfcet Day for Plesiosaur)」という変わったタイトルは、昨年亡くなったJ・D・サリンジャー氏の短編小説「A Perfect Day for Bananafish(バナナフィッシュにうってつけの日)」を捩った物だそうで、同小説内の或るシーンが此の小説でも登場。
「映画『インセプション』と似たテースト。」と選考委員達は評しているが、自分は此の作品を見ていないので何とも言えない。「蝶になった夢を見ている人が居る。しかし其れは、蝶が人になった夢を見ているだけなのかもしれない。」という「胡蝶の夢」の喩えが文中に出て来るが、「現実」と「非現実」の世界がごちゃ混ぜになっていて、何とも言えない不思議な雰囲気を持った作品だ。
受賞が満場一致&瞬時に決まったというのも頷ける程、読者をストーリーに引き込む筆致力。「実際には存在していない事柄を、実際に存在している様に読み手に感じさせてしまう。」というのは、物書きとして素晴らしい能力だ。
唯、残念な点が無い訳では無い。「不可思議さを演出する効果」として使ったのだろうが、同じ様な文章の繰り返しには興醒めしたし、“落ち”が個人的には「想定内」だったし。
総合評価は星3.5個。期待が持てる新人作家なのは確かで、今後の作品が楽しみで在る。