ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

月給激減

2005年08月04日 | 其の他
唐突な話で恐縮だが、貴方が一家の稼ぎ頭だったとする。男女どちらでも構わない。勤続23年の52歳の会社員で、配偶者と子供2人の4人家族を養っている身としよう。或る日突然、そんな貴方の月給が減らされたら一体どうするだろうか?恐らく、可処分所得を減らす事で何とか当座凌ぐというのが一般的だろう。「こんな御時世に馘首されなかっただけまし。」と自分を慰める事も在るだろう。では、月給の手取額が2万円台に下げられたとしたら、どうすべきだろうか?

AERA(8月1日号)」に「成果主義で月給2万円」という記事が載っていた。中堅損保の富士火災海上保険の首都圏本部に勤務している営業社員のA氏(52歳)は、妻と子供2人を抱える勤続23年のサラリーマン。バブル期には年収1千万円を超えていたという。そんな彼が、今年の6月分の給料として口座に振り込まれた額を目にして、呆然自失になってしまった。額面では約11万5千円在るものの、社会保険料や所得税等を差っ引いた手取額が2万2,632円だったからだ。

そもそも富士火災海上保険の正社員は、歩合給の営業と固定給内勤の2つの職種が在り、A氏の場合は契約の実績に基づいて額が決まる完全歩合制だった。同社は2000年から「増加手当て繰り越し清算制度」なるものを導入し、営業成績が上がればその分の増加手当が支給されるものの、逆に前年度より悪化した場合には、その翌年度の”毎月”の給料から一定額が引かれる事になったのだとか。退職する場合もマイナス分が退職金から差っ引かれ、更に2004年からは家族手当や住宅手当が廃止となった。この制度や諸手当の廃止が”無ければ”、A氏の6月分の額面給与は21万4千円という事なので、約10万円の激減になる。

A氏は「2万円では生きていけない。生存権を保障した憲法25条労働基準法に違反している。」として、この7月東京地裁に賃金仮払いの仮処分を申し立て、今年3~5月の平均給与額約22万円の支払いを求めた。「成績が下がったからといって、”後から”その分を会社に戻せというのは制度としておかしい。歩合制というのは判って働いて来たが、”途中で”制度を変える一方的な不利益変更は認められない。」というのがA氏の主張だ。*1

理論上はマイナス給与にも成り得るこの給与制度なのだが、同社広報グループの見解に拠ると問題が無いという。と言うのも、東京都の場合、時給710円を下回ると、最低賃金法違反こちらを参照の事。)となるのだが、「日に7時間、22日間の労働で計算すると最低賃金は月額約10万9千円となり、営業成績が悪くともこの額は支払う。」とする同社の言い分では、A氏の約11万5千円という額は辛うじて最低賃金を上回っているからだ。

労働法に詳しい早稲田大学の島田陽一教授の見解も載っているのだが、「会社側は就業規則を一方的に変える事は出来るが、制度に合理性がなければならない。最低賃金には違反していなくても、労働基準法27条は、出来高払い制の場合の労働時間に応じた一定額の賃金の保障を定めている。この一定額は一般に平均賃金の6割程度とされており、今回のケースは微妙なライン。」としている。

日本で成果主義が本格的に導入されだした頃から、こういう日が何時かは来るだろうと頭で理解はしていた。でも、此処迄極端な現実がいざ我が身に降り掛かって来たとしたら・・・。

成果主義とはいうものの、評価するのも生身の人間で在る以上、其処には多くの対立が発生する。成果主義が余りにも推し進められた結果、社員のモチベーション低下や一匹狼化が進み、会社全体に多くの不利益が生じた為、従来の年功序列型の要素を改めて取り入れた企業も在ると聞く。富む者と貧しき者の差が歴然とし出したこの国では、起業家として一発逆転を目論む人間が、これ迄以上に増えて行く事になるのだろうか。

*1 同社内には2つの労働組合が在り、多数派の富士火災労働組合は会社側の新制度に事前同意しているのだとか。一方でA氏が副委員長を務める全日本損害保険労働組合富士火災支部は少数派で、一貫して「一方的な制度変更の中止」を求め続けている。数の論理で言えば、新制度に準じて働く道しかないのだろうが・・・。


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6 コメント

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難しい問題です (ちゃれんじ)
2005-08-04 09:22:36
私もこの例ほどではないですが今月より午前中の

勤務停止と賃金7万ダウンが決定し、このまま

会社にいつづけるべきか迷ってます。



うちの親は「今すぐにでも辞めろ」と言ってるのですが、次いくところがあればそんなに悩みはしねぇよ。
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Unknown (やま)
2005-08-05 19:20:57
うちの会社も成果主義導入してますが、評価基準が曖昧で、評価者の旨一つで決まってしまうような制度を導入してしまい会社全体のやる気が大幅ダウンしてます。



結局、日本の成果主義なんて人件費抑制以外の何者でもないんですよね。
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公務員も‥‥ (higu)
2005-08-05 23:35:06
鳥取県のように成果主義とまではいかなくてもあまりにダメな人(パソコンが使えないなど)には“退職勧告”を出しているそうです。

いわんや、利潤を追求する企業にとって仕事のできない社員は“不良資産”。「働かざるもの食うべからず」ということでしょうか。



日本の雇用制度がもてはやされたのも今や昔。問題点を修正しつつ導入は進むのではないでしょうか(見直した企業もありますが)

小さな政府、構造改革を進めるということは貧富の差が拡大するということ。「できる人」はそれに見合った生活を得、「できない人」は慎ましい生活をする。できる人とできない人が大差なく年功で昇給するのは不合理―。

「世界で唯一成功した社会主義国家」日本もついに崩壊。「真の資本主義国家」になったといえるのかもしれません。



余談ですが米では一流大学を主席や次席で出た人間は起業家を目指すとか。一流企業に就職するのを目指すのは成績がトップクラスでない人間だ、という話を以前聞きました。

“お国柄”ですね。

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>higu様 (giants-55)
2005-08-06 12:51:09
書き込み有難うございました。



個々人の能力に応じて収入差が生まれる事自体は、決して悪い事ではないと思いますし、資本主義国家を標榜する以上は不可避な事でしょう。何処の世界でもそうですが、口先三寸で怠惰を決め込んでいる輩の分迄も業務を背負い込まされ、能力在る人間が見合わない収入でこき使われているのでは、全く理不尽な事と思います。



唯、「先ずは人件費抑制在りき」という発想で始まった感の在る日本の成果主義の場合、それなりの”工夫”を盛り込まないと、結局の所使用者側だけにメリットを与える制度になるのではないかと。



又、日本の”強み”でも在ったと思われる口伝&伝習の文化が、「成果主義の徹底→一匹狼でやっていかないと馬鹿を見る。」という流れの中で消滅しかかっているのもどうなのだろうかと思う所です。「世界で唯一成功した社会主義国家日本」が「その多大勢と同じ資本主義国家観を持った日本」ではなく、「”独自の”資本主義観を持った日本」に変わって行くので在れば、それはそれで良い気もしますが。



米国の就業観(起業観)は興味深い所ですね。
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Unknown (bp)
2005-08-09 03:13:28
その昔アメリカで働いていた時に会社でレイオフがあって、朝10時くらいに私の同僚達がボスに呼ばれてボスの部屋へ行ったきり帰ってきませんでした。ボスにくびを言われてそのまま会社から立ち去ることを要求されるようです。会社の情報とかを持ち出さないように。レイオフされた人の机の荷物は後で郵送するとのことです。



一方で2週間前の通知で会社を辞められますので、自分から会社を辞める時も突然です。だいたい10日くらい休暇が残ってたりしますから、「私会社辞めます」といって残りの2週間休んだりします。今の待遇より良い条件があれば直ぐに移ってしまいます。会社と従業員とが常に緊張関係にあるということでしょうか。ただ「市場価格」が出来上がっているのでお互いの主張がそこから大幅に乖離することは無いようです。2万円が市場価格から下回っていると思うのであれば通常は市場価格でのオファーがあるはずなのです。この方の場合、成果主義が問題なのかそれともこの方自体に問題があるのか、記事からはわかりませんが。



日本では「どちらにお勤めですか」と聞きますが、アメリカでは「仕事は何しているの?」と聞きます。お金や待遇、そこで得られる経験がより重要であって、「一流企業」という考えがそもそも余りありません。

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>bp様 (giants-55)
2005-08-10 01:41:06
書き込み有難うございました。



海外では労使共にドライな部分は在りますね。bp様の書き込みを拝読させて戴いて思い浮かんだのが、今から10年以上前にアジアの某国で目にした光景。新しく立ち上げた会社に採用されたローカルの人間が、1週間程で出社しなくなったと思ったら、直ぐ前に在る別の会社で次の日から平然と働いていました(笑)。当人や辞めた会社の人間とも話したのですが、自己の能力や資質が活かせないと判断したら、直ぐに辞めてしまうのは良く在る事。需要と供給が合致すれば、新しい所に移るのは已むを得ない事とドライに双方が言い切っていました。結構カルチャーショックを受けたものですが、今や日本もそんな時代になって来ているのですから判らないものです。
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