「我が国は、世界で一番だ!そんな素晴らしい国なのだから、過去から現在に亘り、悪い事なんか一度たりともした事が無い。我が国にとって良い事は全て事実だが、悪い事は全て捏造だ!!」。国内外を問わず、そんな人が増えている様に感じる。自国によって大きな被害を受けた人達の証言が多く存在していても、彼等はそういう証言が無かった事にしたい様だ。アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所等に代表されるナチス・ドイツの残虐行為も、彼等からすれば「全くの捏造で在り、存在しなかった事。」らしい。
第二次世界大戦中、「敵国・日本に起源を有している。」という理由から、アメリカ等では多くの日系人が強制収容された。日本でも「“敵国人”という理由から、横浜刑務所が強制収容所として使われ、“弘明寺プリズン”と呼ばれていた。」と言う。外国人は言う迄も無いが、当時の日本に約2万人在住していたとされる日系人も又、厳しい環境に置かれていた事は、想像に難く無い。
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父の国の大空襲から母を守り、炎の夜を生き延びろ!
“アンダイング=不死身”という綽名を付けられた日系二世の少年・時田武(ときた たけし)14歳。母・君代(きみよ)と家族を率い、炎其の物となった街を駆け抜ける。
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石田衣良氏の小説「不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲」は、父はアメリカ人、母は日本人という、日系二世の少年・時田武が主人公。話は“現在”から始まり、そして“過去”が回想されて行く。「死者数10万人以上。」とも言われる東京大空襲は、1945年3月10日未明に発生したが、其の3日前の3月7日から3月7日迄の“日常”を、武や其の家族、同級生を通して描いている。
今年59歳となった石田衣良氏は、当然の事乍ら、第二次世界大戦を体験していない。だが、彼の母親は高校生の頃、東京大空襲に遭っており、石田氏は高校の時に一度だけ、母から“恐ろしい一夜”の話を聞いたと言う。「戦争や空襲程、残酷な物は無い。」と良く言っていた母親の存在が、「不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲」を書かせたのだろう。
「大勢の人達が、あっと言う間に命を奪われて行く。」というのは、戦争の現実だ。「明るい未来を夢見るで在ろう若者達が、終わりの見えない戦争によって夢を奪われ、そして死んで行く。」というのは、余りにも残酷な事ではないか。
SF要素が入っている事で、読書習慣の無い若い人達にも、取っ付き易い内容になっていると思う。又、自分とは少しでも相容れない存在を面白おかしく排除し様とする人達には、「そういう風潮が“監視社会”を生み、“物言えぬ国”になって行った。」という日本の過去を知って欲しい。
総合評価は、星4つとする。