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・命を絶った青年が残したという1冊の句集。元教師の俳人・作田慮男(さくた のぶお)は、教え子・萩原菜央(はぎわら なお)の依頼で一つ一つの句を解釈して行くのだが、軈て、其処に隠された恐るべき秘密が浮かび上がって行く。(「皐月闇」)
・巨大な遊廓で、奇妙な花魁達と遊ぶ夢を見る男・木下美武(きのした よしたけ)。高名な修験者によれば、「其の夢に隠された謎を解かなければ、命が危ない。」と言う。そして、夢の中の遊廓の様子も段々とおどろおどろしくなって行き・・・。(「ぼくとう奇譚」)
・朝、起床した杉平進也(すぎひら しんや)が目にしたのは、広い庭を埋め尽くす色取り取りの見知らぬ茸だった。輪を描き群生する茸は、刈り取っても次の日には再生し、杉平家を埋め尽くして行く。茸の生え方に或る規則性を見出だした杉平は、此の事態に何者かの意図を感じ取るのだが・・・。(「くさびら」)
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貴志祐介氏の小説「梅雨物語」は、3つの短編小説から構成されている。「雨物語シリーズ」の第2弾に当たり、ジャンルとしてはホラー・ミステリー。
初めて読んだ奇志作品は「黒い家」で、ミステリー好きの後輩が「面白い作品。」と推奨してくれたからだ。読み始めたら其の面白さに魅了され、一気に読み終えてしまった。以降、貴志作品を全て読んで来た。
比較的“外れ”が少ない奇志作品だが、唯一不満を言えば「寡作で在る。」という事。貴志氏の文壇デビューは1996年で、“小説としては”今回の「梅雨物語」が17作目。詰まり、27年間で17作という事で、「1作/1年」に満たない上梓ペースなのだ。こんなにも寡作だと普通、上梓スタイルは“文庫本”に限定されそうなものだが、“単行本”というのが許されるのは、偏に「文才が高く評価されている。」からだろう。
今回読んだ「梅雨物語」、俳句や狂言、植物、昆虫等々、貴志氏の“知識欲の深さ”が感じられる1冊。「ぼくとう奇譚」と「くさびら」の2作品はハッキリ言って面白く無かったが、最初の「皐月闇」は“俳句のルールや解釈の奥深さ”が堪能出来て、其の点では良かった。
でも、3作品全てに言えるのだけれど、“謎解き”という点では非常に物足りない。貴志作品、特に初期の頃の「十三番目の人格 ISOLA」や「黒い家」、「クリムゾンの迷宮」を読んだ時に感じた様な“ドキドキ&ワクワク感”が全く無く、とても残念だ。
総合評価は、星2.5個とする。