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「炭酸飲料に毒が混入された。」と訴えるトラック運転手。「夜な夜な吸血鬼が現れる。」と泣き付く看護師。「病室に天使が居る。」と語る少年。問題患者の巣窟たる統括診断部には、今日も今日とて不思議な症例が舞い込んで来る。だが、荒唐無稽な事件の裏側、其の“真犯人”は思いも寄らない病気で・・・。
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現役の医師でも在る小説家・知念実希人氏の作品「天久鷹央の推理カルテⅡ ファントムの病棟」を読了。「天久鷹央の推理カルテ・シリーズ」は現在迄に10冊上梓されているが、自分にとっては初の「天久鷹央の推理カルテ・シリーズ」。なのに、第1弾では無く、第2弾だったりする。公共施設の「自由に持って行って下さい。」と書かれたコーナーに同シリーズの作品が3冊置かれており、其の中で一番古いのが今回の本だったのだ。
表紙に描かれたイラストは典型的なライトノヴェル調で、おっさんの自分が手に取るには少々抵抗が在った。主人公の天久鷹央(あめく たかお)と小鳥遊優(たかなし ゆう)の設定もライトノヴェル調だが、医学に関する記述は“餅は餅屋”と思わせる物が在る。
3つの短編小説で構成された此の本、トリック解明&犯人当てという点で合格点を与えられるのは、2番目の「吸血鬼症候群」という作品だけ。残りの2作品に関しては、早い段階で判ってしまったので。
でも、一番心に残ったのは最後の「天使の舞い降りる夜」という作品。「“医療現場”にて、九分九厘不可能と思われた事が可能となった。」のを“奇跡”と呼ぶならば、実際の医療現場で奇跡が起こる可能性は極めて低い事だろう。だから、奇跡が起こらなかった「天使の舞い降りる夜」での結末は、“現実感”が在ると言えるのだけれど、何とも言えない切なさが残る。厳しい現実を乗り越え、鷹央も優も医師として成長して行くに違い無い。
最後の作品が強く印象に残るだけに、良い評価を与えたいのだが、全体としてトリック解明&犯人当てに物足り無さが在り、総合評価は星3つとする。