************************************************
日本文化史の大学教授・小宮山香織(こみやま かおり)の下に、教え子・星野はるか(ほしの はるか)から相談事が持ち込まれた。山形の実家が所有する油彩画に、贋作の疑いが掛けられたと言うのだ。明治期を代表する洋画家・高橋由一が描いたとされる「隧道図」は、真筆に近い特徴を持ち乍ら、幾つかの謎を孕んでいた。真贋を調べる香織は軈て、描画当時の事件が鍵を握る事に気付くが・・・。
明治期の不可解な失踪事件、道路事業を巡るめぐる百姓一揆、真贋不明の奇妙な絵、そして新たな殺人。油絵が呼び寄せた謎の先に、驚天動地の真実が待つ。
************************************************
翔田寛氏の小説「油絵は謎をささやく」を読了。高橋由一氏が書いたとされる奇妙な油絵の真贋を巡り、様々な“謎”が浮かび上がって行く。其の謎を、大学教授の小宮山香織が解き明かして行くというストーリー。
「高橋由一」と名前を見聞しても、ぴんと来ない方が居られる事だろう。でも、「美術の教科書で取り上げられていた『鮭』って油絵、覚えてない?彼を描いたのが、高橋由一氏だよ。」と言われたら、恐らくはぴんと来る事だろう。
【「鮭」】
高橋由一氏を始めとして、実在の人物が何人か登場するし、明治時代に実際に起こった出来事等が記されている事も在り、作中で取り上げられている“事件”が、実際に起こった物の様に錯覚してしまう。
表面的には無関係に思われた事件や出来事が意外な形で結び付いて行くし、意外な人間関係も明らかとなる。共に“意外性”は在るのだけれど、意外な人間関係に関して言えば、「ヒントが無い儘、突然に答えが示される。」という感じなので、当てる事は非常に難しいだろう。
集中して読み進めて行けば“言動のおかしさ”に引っ掛かり、延いては“真犯人”を推測する事は、そう難しい事では無い気がする。そうなると、動機も思い当たる事だろう。面白い作品では在るが、ミステリーの醍醐味で在る“事件の真犯人&動機当て”という点では、少し弱さを感じる。
総合評価は星3.5個。