「しゃべれどもしゃべれども」

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東京の下町に祖母・春子（八千草薫さん）と二人暮ししている外山達也（国分太一氏）は、「今昔亭三つ葉」という名の卯建が上がらない二ツ目の噺家。若くして両親を亡くした彼は、落語好きの祖父の影響で古典落語に魅了され、この道に入ったのだ。そんな彼がひょっとしたきっかけから、素人相手の落語教室を開く事に。集まった生徒達は、「美人だが無愛想で口の悪い十河五月（香里奈さん）」に「口達者なのだが関西弁の為、クラスに馴染めない少年の村林優（森永悠希君）」、そして「タイガースを始めとするプロ野球チームでで代打稼業を務め、引退後は解説者を務めるも、生来の口下手さから干されてしまった毒舌でいかつい面相の湯河原太一（松重豊氏）」という個性的な３人。「このままじゃ駄目だ。何とかしないと。でも何をすれば良いのだろう・・・。」そんな悩みを心の奥底に抱えながら、他者にはその素振りも見せられず強がる３人。そして新作落語では無く古典落語に固執しつつ、中々芽が出ない現状を心の奥底で悩み続けている三つ葉にもそんな彼等と同じだった。言い争ってばかりの４人だったが、教室を続けて行く中で心が徐々に通い合い、肝心の噺も上達して行く。

そんな或る日、優は虐めっ子と野球対決をする事になる。元プロ野球選手の湯河原の指導を受け、「絶対に相手の球を打って、見返してやる！」と誓った優だったが、その結果は負けに。悔しがる優に対し「虐めっ子を落語で笑わせてやれ！」と三つ葉は言い、優と五月に「まんじゅうこわい」を発表会で話す様に提案する。
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映画評論家の評価が比較的良かった事も在り、「しゃべれどもしゃべれども」を鑑賞する事にした。ディープな落語ファンという事では無いが、昔はＴＶ等で落語をしばしば堪能する機会が。「柳家かゑる」時代の鈴々舎馬風（５代）師匠＊１や「三遊亭歌奴」時代の三遊亭圓歌（３代）師匠、立川談志（７代）師匠＊２といった定番から、吉野家等有名企業のロゴをベタベタ貼った着物を着こなす三遊亭円丈（３代）師匠や異常な程相撲に詳しい桂文福（３代）等の”変化球”的噺家達の高座は面白かった。だからこそ最近の落語ブームは心密かに嬉しかったりする訳で、この作品も非常に楽しみにしていたのだった。

八千草さんの何とも言えない上品さや、松重氏の一寸屈折したプロ野球ＯＢの演技は光っていた。伊東四朗氏演じる所の今昔亭小三文（三つ葉の師匠）が披露する噺「火焔太鼓」も、実に小気味が良くて聞かせる。（伊東氏の芸達者ぶりを改めて痛感。）落語の世界に疎い人達にも判り易い様、”入門書”的な描き方をしているのも好感を持てる。しかし、如何せんストーリー全体が希薄だったし、登場人物達の描かれ方が浅かったのが残念。国分氏の”噺家としての”話しっぷりは確かに上手いのだが、技量としての上手さは在ってもプラス・アルファ、即ち”味わい”とでもいう可き何かが無かった。まあ二ツ目という設定なのだから、師匠並みに上手かったらまずいのかもしれないが。

観ていて飽きるという内容では無いものの、観る前の期待度が高かった分ガッカリさせらてた作品。総合評価は星２つ。

＊１　由緒在る名跡を継いだ場合、「○○代目（乃至○○代）」という呼称が付けられる。「○○代目」と「○○代」の使い分けを知らなかったのだが、先だって目にした情報によると存命中の噺家には「○○代」、鬼籍に入られた噺家には「○○代目」が付けられるのが正しい形なのだとか。

＊２　当人は「５代」を名乗っている様だが、実際は「７代」が正しいらしい。