ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「神様のカルテ3」

2012年12月05日 | 書籍関連

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医者を舐めてるんじゃない?今の医療って、一カ月単位でどんどん進化していく日進月歩の現場なの。一瞬でも気を抜けば、たちまち自分の医療は時代遅れになるわ。それはつまり、患者にとって最善の医療を施せない、ということじゃないかしら。そんな厳しい世界にいながら、亡くなる患者のそばにいることに自己満足を覚えて、貴重な時間と気力と体力を消費していく医者なんて、私からしてみれば、信じられない偽善者よ。

 

栗原一止(くりはら・いちと)は、信州に在る「24時間365日対応」の本庄病院で働く内科医で在る。医師不足による激務忙殺される日々は、妻・ハルの支え無くして成り立たない。

 

昨年度末、信濃大学医局からの誘いを断り、本庄病院残留を決めた一止だったが、初夏には恩師で在る“古狐先生”をで失ってしまう。落ち込んでいても、患者の数が減る訳では無い。

 

夏、新しい内科医として本庄病院に遣って来た小幡奈美(おばた・なみ)は、内科部長で在る“大狸先生”の元教え子で在り、経験も腕も確かで研究熱心。一止も学ぶべき点の多い医師だ。

 

しかし彼女は、治ろうとする意思を持たない患者に付いては、急患で在っても受診しないのだった。抗議する一止に、小幡は冒頭の言葉を口にする。

 

彼女の覚悟を知った一止は、自分の医師としてのスキルに疑問を持ち始め・・・。

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223万部を超える大ベスト・セラーとなった「神様のカルテシリーズ」。長野県の病院で地域医療に従事されている医師が、「夏川草介」というペン・ネームで生み出した作品で在る。

 

夏目漱石敬愛し、其の影響で古風な話し方をする一止は、周りから“変人”扱いをされているのだが、一方で患者に対して真摯に向き合う姿勢を高く評価されてもいる。そんな彼を主人公に据えた同シリーズは、「医療現場の現実」を描くと共に、「1人の医師が成長して行く姿」をも描いている。

 

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看護師は医師とは勤務体系が異なり、基本的には夜も当直ではなく夜勤扱いである。夜勤は夜だけ働けばよい。当直は朝から働いて夜もそのまま働かなければならない。のみならず、当直制度の非人道的なところは、ようやく朝を迎えれば、そのままその日も夜まで働くという点にある。つまりは徹夜明けで朝から胃カメラをやるというのが、前提の制度なのである。もちろん、徹夜で検査をして小病変を見落とせば、その責任は、医療制度ではなく医師個人に帰せられる。

 

要するに「先生、先生。」と言葉だけは持ち上げておきながら、背後にを握りしめ、いつ殴り倒してやろうかと窺っているのが今の医療現場ということなのだ。

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今回読了した「神様のカルテ3」、内容をキーワードで表すならば、自分は「別れ」というのを挙げたい。ネタバレになってしまうので詳しく書くのは控えるが、様々な「別れ」が此の作品には登場する。其れは「過去に於ける別れ」も在るし、「現在に於ける別れ」も。又、「再会出来る別れ」も在れば、「再会出来ない別れ」も在る。

 

「神様のカルテ3」では、新しいキャラクターとして小幡奈美という女医が登場する。着任当初は「凄腕の医師で在り、人当たりも良い。加えて美人。」という好評価を得ていた彼女だったが、軈ては“別の顔”を見せ始め、医療現場に困惑と混乱を生じさせてしまう。

 

彼女の“別の顔”を知った際、「(彼女の)医師としての立ち位置」等に不快感を持ってしまったのは一止達だけで無く、多くの読者も同様だろう。しかし、彼女が“別の顔”を持つ様になってしまった理由、そして意外な事実を知るに到っては、此れ又一止達と同様に、多くの読者が考え方を変える事になったのではなかろうか。

 

過酷な医療現場の実態」が描かれる際には、概して医療従事者達の“恨み節”が前面に出てしまい、読んでいる側に爽快感が残り難いもの。此の作品にも恨み節めいた表記が無い訳では無いけれど、読後には爽快感が残る不思議さ。折々に描き込まれる「(信州の)自然環境の美しさ」も在るだろうけれど、夏川草介氏の筆致冴えというのも大きい。

 

此の作品では、大きな決断を下す事になった一止。「此れからの彼の成長を見て行きたい。」と続編を望む気持ちが在る一方で、「長期シリーズになってしまうと、得てして作品の質が落ちてしまうもの。」という思いから、「此の作品で、シリーズを終えた方が良いのかもなあ。」という気持ちも在る。

 

総合評価は、星4つとする。


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