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未だ梅雨の始まらない5月の終わりの鎌倉駅。良く似た顔立ちだが、世代の異なる3人の女性が一堂に会した。
戦中、鎌倉の文士達が立ち上げた貸本屋「鎌倉文庫」。千冊在ったと言われる貸出本も、発見されたのは僅か数冊。では、残りは何処へ?
夏目漱石の初版本も含まれているという其の行方を捜す依頼は、昭和から始まり、平成、令和のビブリア古書堂の娘達に受け継がれて行く。
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三上延氏の小説「ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ」は、「古書に関して並外れた知識を持つ古書店の店主・篠川栞子(しのかわ しおりこ)が、客が持ち込んで来た古書に纏わる謎を、アルバイトの五浦大輔(ごうら だいすけ)と共に解き明かす。」というスタイルで始まった。第7弾迄は恋人同士という関係だった栞子と大輔が、第8弾では結婚していて、娘の扉子(とびらこ)が登場。そして、今回読んだ第11弾の「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅳ ~扉子たちと継がれる道~」では「昭和」、「平成」、「令和」と3つの時代を舞台にしている。栞子、栞子の母・智恵子(ちえこ)、栞子の娘・扉子(とびらこ)と、「祖母・娘・孫」という関係性の3人が一堂に会し、「鎌倉文庫」に収蔵されていた貸出本に関する謎が解き明かされて行く。
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鎌倉文庫:久米正雄氏や川端康成氏、高見順氏等々の鎌倉文士達が、自らが所有する初版本や署名本等数千冊を持ち寄り、1945年5月1日に鎌倉八幡宮の鳥居近くで開店した貸本屋。夏目家から提供された夏目漱石の初版本も並んでいたとされるが、1946年末に閉店した際には、貸出本の大半は行方不明になっていた。
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「開運!なんでも鑑定団」【動画】に出品すれば、目の玉が飛び出る程の超高値が付けられるで在ろう貴重な本が、数多貸し出されていたと言う「鎌倉文庫」。自分は、今回の作品で初めて其の存在を知ったのだが、「良くもまあ、そんな貴重な本を貸し出していた物だ。」と驚いてしまう。鎌倉文庫が営業していたのは2年にも満たなかった様だが、「閉店した時点で、貴重な蔵書の大半が行方不明になっていた。」というのはミステリー染みた話で在る。
「ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ」は全て読んで来たが、栞子の父で在り、智恵子の夫で在る登(のぼる)の“詳細”が描かれたのは、記憶違いで無ければ今回が初めてだろう。50代半ばに病気で若くして亡くなった事も在り、此れ迄の作品では詳細が描かれる事は無かったが、若かりし頃の登が智恵子と出会った頃からが描かれており、“大輔と栞子との出会い”を思い起こさせる感じが興味深い。
又、家族をも“裏切る”様な性悪女的部分の在る智恵子だが、登と出会った頃の学生時代は、“油断ならない感じ”は在るものの、少女らしさも見られるのが意外だった。
「ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ」の“世界観の始まり”という意味合いを持つ作品で、「御馴染みの登場人物達のキャラクターが、何の様な過程を経て作り上げられて行ったのか?」が判る。其れは其れで面白いのだけれど、此のシリーズの“売り”で在る「本に関する蘊蓄」の部分が薄いし、何よりも肝心な謎解きの部分が凡庸で、とても物足り無い。
総合評価は、星3つとする。