ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「abさんご」

2013年02月06日 | 書籍関連

先月、第148回(2012年下半期芥川賞を受賞した黒田夏子さん。「『75歳9ヶ月』での同賞受賞は、史上最年長記録。」という事でも話題となったが、受賞作の「abさんご」を手に取ってみた。

 

「abさんご」は表題の「abさんご」の他に、「」、「タミエの花」、そして「」という4つの短編小説から構成されている。「毬」は黒田さんが26歳の時のデビュー作で、1963年に第63回読売短編小説賞を受賞している。「タミエの花」及び「虹」が発表されたのは1968年なので、此の3つの作品は45年~50年前、黒田さんが文壇にデビューして間も無い頃に発表された作品で、全て「タミエ」という少女(?)が主人公。

 

一方、「abさんご」は昨年発表された作品で、兎に角毛色が変わった内容。」で在る。「『昭和』の知的な家庭に生まれた1人の幼な子が、成長し、両親を見送るを描いた内容。」なのだが、「横書き」、「平仮名大和言葉多用した文体」、「情景描写許りで、会話が登場するのは僅か御負けに会話文に、鉤括弧が無し。」*1といった、実験小説的な色合いが強い作品

 

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かつてもいくつかづつ買いたされていったらしくかなりとりどりの型があったが、どれもけんろうで、きわめて重いものをささえつづけながらたわみもなく、もったいないからひとつふたつでも使わないかと、持ちぬしの晩年の同居人がふいに言いだしたとき、言いだされた者は、いぜんの巻き貝状の小べやとおなじほどの面積に十ねん寝起きしていてぬけだす見通しもいっさいないじょうきょうだったので、せまくておけないと、そのことじたいまったくそのとうりで言下にことわるしかなかったのだが、あまりにいっしゅんにおわったそのやりとり、まるでしんせつかのような申し出へのこたえの極度にべもなさを持ちぬしもかたわらで聞いていて、ことわり手がどんなみじめなところに住んでいるのか見たことがないからは、そんなにもなつかしげもないのかとわびしかったかもしれないと、いくえにかねじれたこだわりこだわられた。

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「abさんご」から抜粋した文章だが、最初から最後迄こんな感じ。横書きの文章は未だしも、平仮名が余りに多く、尚且つ文章がくどくどしいので、読み進めるのが非常に辛かった。ゆっくり読み進め、「どういう意味だろう?」と「平仮名」を「漢字」に“脳内変換”して行く作業は、“頭の体操”には良いのかもしれないが、決して愉快な事では無い。

 

「前夜むかれた多肉果紅いらせん状の皮」という表現、「多肉果の紅いさせん状の皮」が「林檎の皮」を意味すると認識する迄、一瞬の間が必要だったし、表現的に小難しさ漂っている。情景描写が殆どというのも抑揚に欠け、退屈で仕方無かった。

 

「abさんご」に比べれば、「毬」や「タミエの花」、そして「虹」という“タミエ・シリーズ”は普通の小説といった感じ。タミエの放つ、何とも言えない雰囲気(恐ろしさ?)が伝わって来るが、だからと言って「凄い作品!」という感じでは無い。

 

「本が売れない。」と言われる昨今文学賞の中には「作品其の物の出来」よりも「著者キャラクターユニークさ」を最優先して、受賞者を決めている様な物も在ったりする。「『こんなユニークなキャラクターの人が書いた作品なら、何か面白そう。』と手に取る読者が多いだろう。」という出版社サイドの計算を強く感じてしまうのだが、近年の芥川賞及び直木賞の受賞作品及び受賞者からも、そんな雰囲気は結構在る。

 

だから今回の両賞の候補作品が発表になった際、“候補者”のプロフィールから「史上最年長」、又は「男性受賞者としては史上最年少で、尚且つ平成生まれ初。」という点で、黒田さんと(直木賞を受賞した)朝井リョウ氏の2人は、「受賞するに可成り有利だろうなあ。」と予想していた。

 

此処最近の芥川賞受賞作品は、“個人的に”不満の残る物許り。」なのだが、「abさんご」も其の例外では無かった。歴史も権威も在る芥川賞。其の受賞作品に対して、自分の様なおっさんがどうこう言うのは僭越だけれど、総合評価は星1.5個とする。

 

*1 「(平仮名文が当たり前だった時代も在るのに)漢字が多用されていない文章は読み難い。」とか、「会話文に鉤括弧が付けられるのは当たり前の事。」とかと、“現代の常識”に捉われている事に気付かされるという意味では、良い経験だったけれど。


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6 コメント

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Unknown (悠々遊)
2013-02-06 22:34:59
ひらがな多用文はそんなに珍しいものではないと思いますよ。幼児向けの本なんか、まさにそれですから。

それよりも作品内容ではなく、その表現手法で奇をてらっている印象が「小賢しい」気がしますね。それを評価するほうもどうかと。今はそんなにも「書ける人」がいないのでしょうか。

星新一さんは読みやすさを心がけるため、難しい漢字はわざと使わなかった、と聞いていますが「abさんご」はその逆をいっているんですかね。

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Unknown (マヌケ)
2013-02-06 23:27:58
だれが見ても解りやすい、印象派の絵画は、はっきりと綺麗だとか美しいとか言えると思います。 しかし、ミロやピカソの抽象的な絵画や、絵具を垂らしたり、吹きつけただけとしか思えないアバンギャルドなもの、生き物を輪切りにしてアクリルに閉じ込めたもの、死んだ動物が腐敗していく様子をビデオに収めたもの、などなどはどうでしょう。 表現方法そのものも芸術ですから、小説も内容だけが賞の評価の対象でもないんだと思えばどうでしょう。 ストーリーを楽しみたい多くの読者にとっては、文学賞が必ずしも良い作品という目安にはならないのかもしれませんね。 昨年の「終の住処」などもわけがわかりませんでした。
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Unknown (透明人間)
2013-02-06 23:48:03
お恥ずかしい話ですが小説は読まないです

でも俺は根がミーハー(現代では死語?)だから最年長とか最年少と聞いたら気にはなります
何も無いより何らかの売りが有った方が普段小説を読まない俺でも興味を持ち注目しますからね(でも本は買わないです(^^;))
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>悠々遊様 (giants-55)
2013-02-06 23:49:26
書き込み有難う御座いました。今回は、此方にレスを付けさせて貰います。

確かに、幼児向けの本は平仮名が基本ですね。平仮名じゃないと子供が読めないというのも勿論在りますが、平仮名だからこその味わいも在る。

子供の頃に読んだ童話で、今も忘れられない作品が数多く在ります。浜田廣介氏の「泣いた赤鬼」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%A3%E3%81%84%E3%81%9F%E8%B5%A4%E9%AC%BC)や小川未明氏の「赤い蝋燭と人形」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B5%A4%E3%81%84%E8%9D%8B%E7%87%AD%E3%81%A8%E4%BA%BA%E9%AD%9A)等がそうですが、平仮名が基本の文章だからこそ、深い味わいが在ったとも言える。

「abさんご」を書いた黒田さんに、恐らく小賢しい計算が在った様には思えず、寧ろ此の作品を激賞している自称知識人の中に、「此の作品の本質を判らないのはおかしい。」という小賢しさが結構在る様に感じています。(真に素晴らしいと思い、其れで褒めている人も居るでしょうが。)
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>マヌケ様 (giants-55)
2013-02-06 23:56:39
書き込み有難う御座いました。

「芸術」は鑑賞する人によって、受け取り方が異なるもの。マヌケ様が記されている様に、「判り易い作品」は概して“受け”が良いけれど、「抽象的な作品」はハッキリ評価が判れますものね。

個々人が“自分の目と頭”で判断し、「此れは良い。」とか「此れは良くない。」とするのは良いのですが、「権威の在る人(乃至は組織)が高く評価したのだから、良くない訳が無い。」と盲目的に激賞するというケースが昨今は多そうな気がしています。「ネット上に記されたデマを、検証する事無く盲信する。」、そういう人が少なくないだけに、良い悪いを自分の頭で判断して欲しいものです。

「終の住処」(http://blog.goo.ne.jp/giants-55/e/d2864e6948e8607094987b61b85e359c)、自分も可成りガッカリな内容でした。
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>透明人間様 (giants-55)
2013-02-07 00:00:47
書き込み有難う御座いました。

ミーハー、大いに結構じゃないですか。何事にも好奇心旺盛だからこそミーハーとも言えるし、何より自分も可成りのミーハーですから。

「限定○個限り」と記された商品があっという間に売れる様に、「史上初」とか「史上最年長(乃至は最年少」という惹句に飛び付く人が居るのは、決して悪い事では無いと思っています。偉そうな事を書いていますが、自分だってそういう惹句には弱いし。

唯、大事なのは、惹句に飛び付いたとしても、内容を自分の中で十二分判断する事だと思います。此れは小説に限らず、何事に於いてでもですが。
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