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・米軍から特別捜査官を迎えた件で、警察庁長官官房に呼び出された竜崎伸也(りゅうざき しんや)。審議官からの追及に、竜崎が取った行動とは・・・。(「審議官」)
・キャリアへの反発心を隠さないヴェテラン捜査員。手続き許り面倒な捜査本部立ち上げに抗議し様とするも、新任の竜崎刑事部長は、此れ迄のキャリアとは一味違う様で・・・。(「専門官」)
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今野敏氏は多くの人気シリーズを著している作家だが、警察小説「『隠蔽捜査』シリーズ」もそんな1つ。「“エリート中のエリート”といって良い存在の竜崎伸也は、息子の不祥事によって大森署の署長へと“左遷”されてしまうのだが、『私利私欲とは無縁で、原理原則に基づき、国家公務員として在るべき姿を忠実に全うするだけ。』という思いしか無い彼は、腐る事無く、今迄通りに言動する。そんな彼を周りは最初“変人”扱いし、反発したり、距離を置いたりもするのだけれど、彼のぶれない姿勢や人間性に魅了され、軈ては“シンパ”に変わって行く。」というストーリーだ。
今回読んだ「審議官 隠蔽捜査9.5」は9つの短編小説で構成されており、「『隠蔽捜査』シリーズ」としては第12弾に当たる。竜崎が大森署の署長だった時代、そして神奈川県警刑事部長へと異動した時代が入り混じっており、又、竜崎以外を主人公にした作品が在る等、此れ迄のシリーズとは少し色合いが異なっている。
面白いのは「竜崎が大森署の署長に就任する以前、“従来の悪い意味での警察組織の常識”に染まり切っていた署員達が、竜崎の就任によって目が覚めて行くのだけれど、彼が神奈川県警刑事部長に異動になった事で、心が“空白状態”となり、『以前の様なスタイルに戻るべきか?否、竜崎署長だったら、どう動くだろうか?』と自問自答する姿。」だ。「改革が定着するか否かは、主導していた人間の“器”も大きく影響している。」というのが、凄く感じられる。
「当たり前の事を、当たり前に遣っているだけ。」と心から思っている竜崎。だから、「当たり前の事をしているだけなのに、不思議がる周りの人間が、心底理解出来ていない。」のが笑える。そんな竜崎でも、「当たり前の事を進める為なら、“問題無い範囲”で相手に合わせる事も出来る。」というのが、今回の作品では判り、「へー。」と意外に。相手に阿る訳では無く、又、問題無い範囲での事なので、“人間的な成長”と言えるだろう。
「参事官」という作品が、一番面白かった。「同じ参事官という立場で在り乍ら、片やエリート、そして片や叩き上げという、色んな意味で対照的な2人。そんな彼等は周りからは犬猿の仲と思われていて、竜崎は“上”から『何とかする様に。』と指示される。実際、彼等は人前で激しい言い合いしたりしているのだが、竜崎は彼等に幾つかの“挑発”をする事で、周りが気付かなかった彼等の関係性を看破する。」というストーリー。表面的な部分だけに捉われない、竜崎の深い洞察力には感服。
竜崎の異動後、新しく大森署の署長に就任した美貌の持ち主・藍本小百合(あいもと さゆり)。「強烈な個性を持つ竜崎の後任として、どうなのかなあ?」という思いも在ったけれど、竜崎とは全く異なる人間性で、部下達をシンパにして行きそうだ。今後が楽しみ。
総合評価は、星3.5個とする。