*********************************
池袋のトラブルシューター・真島誠(まじま まこと)の下には、あらゆる難題が持ち込まれる。出鱈目の虐待疑惑をネットに書き込まれて炎上した宅配ドライヴァー。母親が悪い男とドラッグに嵌まった女子中学生。根拠の無い情報が溢れるオカルト・サイト。ATMの不正操作による大規模詐欺。
*********************************
「東京の池袋西口公園近くの果物屋の息子・真島誠が、“池袋のトラブルシューター”として、依頼された難事件を次々と解決して行く。」という「池袋ウエストゲートパーク・シリーズ」。第1弾が上梓されたのは1998年。当時、著者・石田衣良氏は38歳で、主人公の“マコト”の年齢設定よりも恐らく10歳以上年上と思われるが、年齢差を感じさせないエッジの効いた、瑞々しい文章が溢れていた。
其れから19年。57歳となった石田氏が上梓したのは、「池袋ウエストゲートパーク・シリーズ」の第13弾「裏切りのホワイトカード 池袋ウエストゲートパークXIII」だ。
*********************************
おれたちが生きているのは、即決裁判が許された情状酌量のない時代だ。みんな考えるのが面倒で、善悪をさっさと悩まずに決めてしまいたいのである。とくにネットで見かけた他人のトラブルについてはね。不倫は悪、経歴詐称は悪、ギャンブルは悪(国家公認のやつ以外)。最近の炎上パターンはお決まりの形ばかり。集団で寄ってたかって袋叩きにし、社会的に葬り去る。ご清潔な人の道から、わずかでもはずれてしまえば、数の力を頼りにした恐怖のバッシングが待っている。キュウクツで息苦しい時代だよな。 「滝野川炎上ドライバー」より
嘘とでたらめの世界に、おれたちは生きている。ある海外の辞典出版社が2016年を代表する言葉に「ポスト-トゥルース」という単語を選んだそうだ。嘘でもでたらめでも、話題を呼んで数を集めれば勝ち。国境に壁をつくるとか、異教徒は国から放り出すとか、外国製品にとんでもなく高い関税をかけるとか。大衆に受けるのなら、できようができまいがなにをいってもかまわないのだ。
おれたちが口にすることはもう「真実」である必要はないし、別に正直でも誠実でもある必要はない。数を集めれば、それでいいのだから。大統領選挙も「PPAP」もまったく同じだよな。ネットでは数の多いところを狙わなきゃ意味なんてないのだ。数がただひとつの正義で、富と権力の源泉だ。 「裏切りのホワイトカード」より
*********************************
「執拗な性的描写に、辟易とさせられる事が多い。」というのが近年の石田作品だが、「池袋ウエストゲートパーク・シリーズ」はそういう作風からは乖離している。
「石田氏も“アラ還”となり、『池袋ウエストゲートパーク・シリーズ』で描かれる若者像も、何か時代遅れな感じがする。」といった批判も在る様だが、個人的にはそういう感じはしない。同シリーズを始めて読んだ時に魅了された“エッジの効いた瑞々しい文章”は健在。
児童虐待や格差社会、ドラッグ、ネット上等での常軌を逸したバッシング等、現代社会が抱える“闇”を題材にした4つの短編小説で構成されている。個人的に一番好きなのは「滝野川炎上ドライバー」。此の作品もそうだが、「池袋ウエストゲートパーク」には“社会的弱者への温かい視線”というのが感じられ、そういう所に自分は魅了されるのだと思う。
長期シリーズになると、好き嫌いがはっきり分かれて来るもの。今回の作品に付いてネット上では低い評価も在る様だが、自分は好きなテーストだ。総合評価は、星4つとする。