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明治38年7月。国民が日露戦争の行方を見守る中、警視庁第1部第1課の電話のベルが鳴った。殺された帝国大学講師・高島良造(たかしま りょうぞう)は、急進派で日本古来の文化の排斥論者だと言う。
同日、陸軍大佐・本庄敬史郎(ほんじょう けいしろう)も高島と同じく、鋭い刃物で一突きに殺されたとの知らせが・・・。
警視庁第1部第1課は、伯爵の孫で探偵の西小路臨三郎(にしこうじ りんざぶろう)や、元新選組三番隊組長で警視庁にも在籍していた斎藤一改め藤田五郎と共に捜査を進めて行くが・・・。
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警察小説を十八番とする今野敏氏が、初めて“明治の警察”を描いた作品が、今回読了した「サーベル警視庁」。
時代は、明治38年7月。江戸の世が終わり、明治の世になってから38年。“日本に於ける最後の内戦”と言われる西南戦争が終わってから28年。大国ロシアとの戦争が2年目に突入し、日本の勝利が見え始めるも、国も国民も経済的に行き詰まって行く・・・そんな状況下に起こった“連続殺人事件”。
話は勿論フィクションなのだが、“黒猫先生”事夏目漱石、“小泉八雲”事パトリック・ラフカディオ・ハーン、黒岩涙香、ラファエル・フォン・ケーベル、斎藤一、山縣有朋等、明治の世に実在した有名人達が登場し、又、実際の経歴と同じ設定(斎藤一が警視庁で働いた後、東京女子高等師範学校で人力車の交通整理等を行っていた等。)だったりするので、実際に起こった出来事の様に感じてしまう。「実際にこういう出来事が起こっていたら、こんな感じで彼等は動くのだろうな。」と。
上記した様に、物語は江戸の世が終わってから38年後。人々(特に若い人達)の頭の中から“武士の時代”は薄れ去り、「列強に追い付け、追い越せ。」と“脱亜入欧”が叫ばれていた時代。「ヨーロッパの文化や習俗は正しいので、全てを取り入れろ。逆に、日本の其れ迄の文化や習俗は古臭くて誤りなので、全てを捨て去れ。」といった極端な思考が優先されれば、軈ては大きな歪みが生まれても来よう。(今は逆に、「日本は全てに於いて正しく、そして素晴らしい。」という思考が増しており、不安を感じるけれど。)
ファンの方には申し訳無いけれど、自分は「新選組」という組織が好きじゃ無い。でも、個々の隊士には興味が在り、“生き残り”の1人・斎藤一も例外では無い。だから、彼が登場する今回の作品は、そういう意味でも面白かった。
総合評価は星3.5個。続編を期待したい。