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捨てた筈の過去から届いた1通の手紙が、封印した私の記憶を甦らせる。
15年前、アルバイト先の客だった落合(おちあい)に誘われ、バーの共同経営者となった向井聡(むかい さとし)。信用出来る相棒と築き上げた自分の城。愛する妻と娘との、慎ましくも穏やかな生活。
だが、1通の手紙が、嘗て封印した記憶を甦らせようとしていた。「彼の男達は、刑務所から出ています。」。便箋には、其れだけが書かれていた。
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16年前、暴力団員達から追われる事になった高藤文也(たかとう ふみや)は、1人の女性・坂本伸子(さかもと のぶこ)と出会う。嘗て娘を2人の男に凌辱&惨殺された伸子は、「娘を惨殺した2人を殺害したいと思い続けて来たが、自分は癌に罹患しており、先が長く無い。彼等が刑務所を出た際、自分に代わって殺害してくれないか?約束してくれたなら、(特徴の在る)顔を整形し、新しい戸籍を取得する為の費用500万円を上げる。」と高藤に提案する。
悩んだ挙句、“別人”となった高藤。今は向井聡という名前で、幸せな家庭生活を送っていたが、そんな彼に伸子から殺人を促す手紙が届く。「悪事に手を染めていた過去を、家族達に知られたく無い。と言って、約束を守り、殺人もしたくは無い。」と懊悩する向井は伸子を捜すが、彼女は既に亡くなっていた。
伸子に代わり、向井を“脅迫”しているのは誰なのか?“伸子の魂”を名乗って向井を脅迫する人間は、何故、伸子が知り得なかった向井の過去を知っているのか?次々に浮かび上がる謎や、警察に追われる事になった向井の今後等、先が気になってどんどん読み進んでしまった。
「最も犯人らしくない人間が真犯人。」というのはミステリーの御約束。ミステリー大好き人間なので、当然、其の御約束に基づいて“犯人捜し”を行ったが、完全に外してしまった。「最も犯人らしくない人間が真犯人。」という御約束は守られていたが、余りにも意外な人間だったので。又、或る人物と或る人物との人間関係も、実に意外だった。
“御都合主義的設定”も見受けられるし、必ずしも後味が良い作品では無いけれど、読み物としては非常に面白かった。
総合評価は星4つ。