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消費税の欠陥は、なんと言っても低所得者ほど負担が大きくなる点である。「いや、消費税の税率は同じなのだから、負担感はみな同じじゃないか?」と思う人もいるだろう。しかし、それは大きな誤解だ。
確かに税率はみな同じである。しかしその人の収入に対する負担率は、その人の収入によって違ってくる。そして消費税は低所得者ほど、負担率が上がる税金なのである。
たとえば、年収が1億円の人がいたとする。この人の消費が2,000万円だったとしよう。2,000万円でも、普通の人に比べれば相当贅沢な暮らしができるはずだ。残りの8,000万円は貯金したり、投資に回したりするわけだ。すると、この人が払っている消費税は2,000万円X8%で160万円である。
1億円の収入があって、支払っている消費税は160万円。つまり、この人の収入に対して負担している消費税の割合は1億円分の160万円、1.6%ということになる。
また一方、年収200万円の人がいたとする。年収200万円の場合、貯金する余裕はないので、収入のほとんどが消費に向かうはずだ。だから消費額は200万円となる。となると、この人が収入に対して負担している消費税の割合は8%になる。
年収1億円の人の税負担が1.6%で、年収200万円の人の税負担が8%。収入が低いほど、負担が大きくなるのだ。
これを所得税に置き換えてみれば、異常さがわかるはずだ。もし億万長者の所得税を1.6%にして、貧困層の所得税を8%にするとしよう。そうすれば国民は大反発をし、こんな税は絶対に通らない。もしこれを実施すれば、史上最悪の税金として歴史に刻まれるはずだ。
しかしこれと実質的にはまったく同じことをしているのが、日本の消費税なのである。消費税を導入すれば格差が拡大することは理屈でも言えることだし、データにも明確に表れている。
日本に格差社会などという言葉が流行したのは、2000年代からである。つまり消費税の導入と増税の影響が深刻に出始めたころから、格差社会が世間に認識されるようになったのだ。消費税がいかに欠陥税であるか、ということである。
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タイトルに魅せられ、購入した本「無税国家のつくり方 ~税金を払う奴はバカ!②~」。著者の大村大次郎氏は元国税調査官を務めていた人物で、税金に関する本を何冊か上梓している。「脱税調査マニュアル」や「税務署なんか怖くない」等、彼の本には、刺激的なタイトルが多いのも特徴。
「開発途上国の企業ならば、設備投資で借金を重ねて行くけれど、国の産業が成熟した先進国では、一通りの設備投資が済んでいるので、大きな設備投資を行う事は少なく、借金を重ねる事は中々無い。貿易黒字を拡大し続けるというのも、他国との軋轢等を考えると、此れ又難しい。“金回りの悪さ”というのは先進国共通の悩みで在り、日本も其の例外では無い。『資本主義とは、企業(国や自治体も含む。)が借金をし捲り、貿易黒字を稼ぎ捲る等して、市中に出回る金を拡大し続けなければ、どんどん縮小してしまう経済システム。』で在り、此れこそが資本主義経済其の物の欠陥。日本経済が此れだけ長期間低迷しているのも、其の欠陥が大きく影響している。」というのが大村氏の考え。ざっくりと言えば、「日本を“無税国家”にする事で市中の金回りが良くなり、国民は積極的に金を使う様になる。そうすれば、景気は上昇する。」と彼は主張している。
石油や天然資源に恵まれた国の中には、法人税や所得税、相続税、消費税等の税金が掛からない、所謂“無税国家”は存在する。然し、「石油や天然資源等が余り産出されない日本を、無税国家にするなんて荒唐無稽な話。」と思うのが、普通の感覚だろう。自分も、そんな1人だし。
松下幸之助氏も推奨していたという「無税国家」なるシステム。「“政府紙幣”を発行する事で、日本も無税国家になれる。」と大村氏は言う。抑、政府紙幣の発行は、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・M・ブキャナン氏や元大蔵官僚の榊原英資氏、経済評論家の森永卓郎氏、みんなの党の元党首・渡辺喜美氏等も提言。
「中央銀行で在る“日本銀行”が発行する“銀行券”を、我々は“紙幣”と呼んでいる。」訳だが、其れに対して「政府が“直接”発行し、通貨としての通用力が与えた物が“政府紙幣”」とされる。嘗て明治政府によって発行された「太政官札」がそうだし、もっと遡れば、「藩札」も其の一種と言えよう。
「発行に関して厳重な制限が在る銀行券に対し、政府紙幣は何の制限も無く、自由に発行出来る。国債の様に返済義務は無いので、幾ら発行しても財政は悪化しないし、税金を徴収する手間も省ける。」とする大村氏。「日本には、個人金融資産が約1,500兆円、企業の内部留保金が約300兆円在り、此れを“日本の信用”と見做して(見せ金として)、此の約1,800兆円を基準に、年3%程度の政府紙幣を発行する。」というのが、彼の考え。
「果たして其れで、本当に政府紙幣は信用を置かれるのか?」、「銀行券と政府紙幣という2種類の紙幣が流通する事で、経済が大混乱を来さないのか?」、「政府紙幣が“失敗”した際、個人金融資産や企業の内部留保金が没収されるのでは?」、「政府紙幣を“濫造”する事で、深刻なインフレを齎すのではないか?」といった疑問や懸念が、政府紙幣には在る。そういった点に付いて、大村氏は具体的な理由を挙げた上で「問題無し。」としているが、個人的には「本当にそうかなあ?」と疑問が残らないでも無い。
特に懸念を覚えるのは、「新しい“打ち出の小槌”を手に入れた!」として、政府紙幣の濫造に走りそうな政治家や官僚の存在。大村氏も其の点は不安が在り、「『政府紙幣の発行は、公共事業の為にしてはならない。其の使途は社会保障、国家公務員の給与、防衛費に限る。』とする等、厳格に縛る必要が在る。」としている。
でも、“拡大解釈”を十八番とし、“禁じ手”の赤字国債を積み増して来た国で在る。又、グリーンピア事業に対し、本来注ぎ込んではならない年金財源をどんどん注ぎ込んだ挙句、大きな損失を生み出してしまったというのに、誰も責任を取らなかった様な国でも在る。
そんな国の政治家や官僚ならば、どんな縛りを作った所で、拡大解釈等により、政府紙幣の濫造をするのは火を見るよりも明らかではないか?(株価上昇によって政権を延命すべく、年金保険料をどんどん株式投資に突っ込んでいる“今”を思うと、其の懸念は増す一方。)そんな国だからこそ、政府紙幣の発行には諸手を挙げて賛成は出来ないけれど、大村氏の主張自体は一考の価値が在るだろう。
又、冒頭に記した消費税を始めとして、“日本の税体系の問題点”が、具体的な例と共に、次々と指摘されている。「成る程。」と思わされる点が少なく無く、一読を推奨する。