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今年で32歳の独身男・風祭(かざまつり)警部の父親は、中堅自動車メーカー「風祭モータース」の社長を務めている。シルバーメタリックの愛車「ジャガー」で颯爽と事件現場に登場する彼だが、其の言動は只管気障で、思い付いた推理は悉く方向違い。そんな困った上司の下で働く刑事・宝生麗子(ほうしょう・れいこ)だが、彼女の父親は金融とエレクトロニクスと医薬品とミステリー出版等で世界に其の名を轟かせる巨大財閥「宝生(ほうしょう)グループ」の総帥という、生粋の御嬢様。
共に金持ちという共通点を持つ2人が難事件を捜査するのだが、彼等だけでは謎の解明は進まない。実際に謎を解いてしまうのは別の人物。年の頃なら30代半ばで、ひょろりと背が高く、喪服と見紛う様なダーク・スーツを着込んだ、銀縁眼鏡の男。彼は宝生家に執事兼運転手として仕える影山だ。普段は麗子に対して恭しい態度で接すと影山だが、捜査に行き詰った麗子から事件の概要を聞かされると、其の態度は一変する。「失礼乍ら、御嬢様の目は節穴で御座いますか?」等々と、慇懃無礼な物言いをするのだった。
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ポップ・アート風の表紙が印象的で、書店に山積みされているのを良く目にしていた。2011年版「本格ミステリ・ベスト10(国内編)」の第9位、そして2010年度「週刊文春ミステリーベスト10(国内編)」では第10位に輝いた作品「謎解きはディナーのあとで」(著者:東川篤哉氏)が其れで、「面白い作品。」という評判はちょこちょこ見聞しており、読むのが楽しみな作品だったのだが・・・。
登場人物達の軽妙な遣り取りは面白く、実に読み易い小説。扱われているトリックに斬新さは感じなかったけれど、(一部ネタバレになってしまうが)「殺しのワインはいかがでしょう?」という短編小説(「謎解きはディナーのあとで」は、6つの短編小説から構成されている。)で記される「百円ライターとオイル・ライターの或る違いなんぞは、煙草を一切吸わない自分にとっては「へーっ。」と思わされる物が在った。
読んでいて感じたのは、「何か懐かしいな。」という事。学生だった大昔、大好きで其の作品を読み漁っていた赤川次郎氏の作風に似ている気がしたから。同氏の作品を読んだ事が無い方にはさっぱり判らないだろうが、人気シリーズの1つ「大貫警部シリーズ」に一番近いかもしれない。唯、懐かしさは在ったものの、其の分オリジナリティーを感じ得なかった。東川作品のファンの方には申し訳無いけれど、全体的に浅く、読み終えた後に「残る何か」が無かったし。
正直「何で此の作品が、そんなに高い評価を得たのだろう?」という思いが。娯楽小説としては決して悪くは無いが、だからと言って積極的に「良い作品です!」と推せる内容では無い。総合評価は星3つとする。