ミステリー関連の年間ブック・ランキングで、自分が注目しているのは「本格ミステリ・ベスト10」(発行元:原書房)、「週刊文春ミステリーベスト10」(発行元:文藝春秋)、そして「このミステリーがすごい!」(発行元:宝島社)の3つ。で、「2020週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」及び「このミステリーがすごい! 2021年版【国内偏】」では1位、そして「2021本格ミステリ・ベスト10【国内偏】」では4位を獲得したのが「たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説」。
著者の辻真先氏は推理作家としてのキャリアも長いけれど、アニメ&特撮脚本家としてのキャリアは非常に長い。1960年代初めから脚本家として活躍されており、此方を見れば御判りの様に、担当された作品は有名な物許り。90歳を間近にして現役で、尚且つ今回の作品で高い評価を受けたというのは、本当に凄い事だ。
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昭和24年、ミステリー作家を目指しているカツ丼事風早勝利(かざはや かつとし)は、名古屋市内の新制高校3年生になった。旧制中学卒業後の、たった1年だけの男女共学の高校生活。そんな中、顧問・別宮操(べつく みさお)先生の勧めで、勝利達が所属する推理小説研究会は、同じく操が顧問を務める映画研究会と合同で、1泊旅行を計画する。顧問と男女生徒5名で湯谷温泉へ、修学旅行代わりの小旅行だった。
其処で巻き込まれた密室殺人事件。更に夏休み最終日の夜、キティ台風が襲来する中で起きた廃墟での首切り殺人事件。2つの不可解な事件に遭遇した勝利達は果たして・・・。
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物語の舞台は終戦から4年後の昭和24年の名古屋市内で、主人公の風早勝利は新制高校3年生の17歳。そして、著者の辻真先氏は昭和7年に愛知県で生まれており、昭和24年には17歳となっている。そう、勝利は辻氏自身と言っても良く、描かれている世界は、彼が過ごして来た時代でも在るのだ。だから、当時の雰囲気が、非常にリアルに伝わって来る。終戦により、其れ迄の価値観や環境ががらりと変わった事で、大人や子供を問わず、皆が戸惑っている状況等も。
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勝利が在籍した旧制中学では、二年先輩の上級生は全員が特攻を志願した・・・美談の形をとっぱらえば、志願させられていた。文部省から愛知県へカミカゼの枠が割り当てられたという噂も流れたが、自分の言葉に感動して、落涙しながら生徒を励ます教官の姿は、まさに愛国心の権化であった。そのときの教官は今もケロリとした顔で健在だが、将来を嘱望されていた少年たちの多くは、帰ってこなかった。あのまま戦争がつづけば、自分もお国を守ったつもりで死に、当のお国は焦土となって負けたんだ・・・。
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「昔は普通に使われていたけれど、今は死語となってしまった用語。」を結構知っている自分だが、作品内で使われている用語には、知らない物も幾つか在った。基本的にそういう用語には“解説”がされているのだけれど、中にはされていない物も在り、読んでいて意味不明さを感じる人も存在しそう。当時の雰囲気を伝える目的で“死語となった用語”を使うのは「在り。」だが、可能な限りの説明は必要だろう。
“密室殺人”と“首切り殺人”という2つの不可解な事件に付いて、其の真犯人と動機、そしてトリックを推理して行く訳だが、真犯人に関しては想像が付いた。でも、動機とトリックは当てられず、“現実味”という点では疑問を感じるも、トリックの意外性には「そう来たか。」と驚かされた。
「高齢で在る事=悪」と見做す風潮が強い中、今年で89歳になられる辻氏には、「高齢で在っても、こんなに凄いんだぞ!」という所を、どんどん見せ付けて貰いたい。
総合評価は、星3.5個とする。