作風が気に入ると、其の作家の全作品を読破したくなる。自分にはそんな癖が在るのだけれど、青空百景様から教えて戴いた作家・大崎梢さんの場合も最初に読んだ「配達あかずきん 成風堂書店事件メモ」が良かったので、其れ以降「晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)」、「サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ」、「片耳うさぎ」と読了し、此方にレヴューを載せて来た。
「片耳うさぎ」以降、レヴューを書きはしなかったが、彼女の作品は次々に読んでいた。「天才探偵Sen 公園七不思議」に「かがみのもり」、そして「天才探偵Sen 6 迷宮水族館」というジュヴナイル小説だ。ジュヴナイル小説という事で全体的にライトな感じは否めないし、書店で勤務していた経験を有する大崎さんの作風の最大の魅力で在る「書店」が舞台にされていないというのが、此の3作品の物足りなさを増させている。
そんな訳で今回は「書店を舞台にした作品」、でも此れ迄に読んで来た「『成風堂書店事件メモ』シリーズ」では無く、小規模の出版社「明林書房」の新人営業部員として働いている井辻智紀が“探偵役”を務める「『出版社営業・井辻智紀の業務日誌』シリーズ」の第1弾「平台がおまちかね」を読む事にした。因みに「平台」とは、「書店で本や雑誌を平積みにする台。」の事。
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自社本を沢山売ってくれた書店を訪ねたら、何故か冷たくあしらわれ・・・、文学賞の贈呈式では、当日、会場に受賞者が現れない・・・!?新人出版社営業部員の井辻君は、個性的な面々に囲まれ乍ら、波爛万丈の日々を奮闘中。本が好き。でも、と或る事情で編集部には行きたくなかった井辻君の、ハートフル・ミステリ。“出版社営業・井辻智紀の業務日誌”シリーズ第1弾。
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矢張り、大崎さんの「書店を舞台にした作品」は良い!「彼女の本に対する熱い思い」が「登場人物達のキャラクター設定」や「記述」に十二分に投影されていて、本好きならばどっぷりと“大崎ワールド”に感情移入してしまう事だろう。
「薄利多売体質の書店業に在って、従業員達の労働環境は概して過酷で在る。という現実が、大崎さんの作品からは窺い知れるのだが、「薄給で重労働な環境でも、大好きな本に囲まれた仕事がしたい。」という従業員達が少なからず居る事に、心から応援したい気持ちになる。
5つの短編小説で構成された此の本、個人的に一番好きなのは、本のタイトルにもなっている「平台がおまちかね」。「出版社営業部員」と「書店の店主」との間に構築された信頼関係が、或る件を切っ掛けに断絶してしまうのだが、其れ以降の「両者の心模様」がストーリーを読み進める毎に読み手に伝わって来て、切ない気持ちにさせられるから。
小さい乍ら、客を思って必死で頑張って来た地方の書店が、進出して来た大型書店の影響を受け閉店に追い込まれてしまう。そんな書店を扱った「絵本の神さま」もハートフルさでは「平台がおまちかね」に負けていないのだが、此方の小説の場合は「謎解き」(「閉店した書店の前に佇んでいたという男性は、一体誰なのか?」等。)の面で、5作品中1番良かった様に思う。
総合評価は星3.5個。