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北海道根室半島沖の北太平洋に浮かぶ石油プラットフォーム「TR102」からの連絡が途絶えた。日本にとって重要な施設で在り、テロの可能性も考えられる事から、現地に派遣された陸上自衛官三等陸佐の廻田(かいだ)達は、TR102内で悍ましい光景を目にする事となる。職員全員が死亡、それも全身が壊死した様に痛んだ、無残な死体で転がっていたからだ。
帰還した廻田は、感染症学者の富樫裕也(とがし ゆうや)博士等と、被害拡大を阻止する様に政府から命じられるが、北海道本島でも同様の事件が起こってしまう。軈て彼等は、或る法則を見出だすが・・・。
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第11回(2012年)「『このミステリーがすごい!』大賞」で、大賞を受賞した小説「生存者ゼロ」(著者:安生正氏)。極めて短時間の間に大勢の人間が死亡、それも激烈な感染症の発生を思わせる死に方という事で、所謂“パンデミック物”かと思って読み進めたのだが、其の正体は全く予想外の物だった。「良くもまあ、こんな発想が浮かんだなあ。」と驚いてしまう。
ネット上のレヴューを見ると、評価はクッキリと二分されている。「面白い!」と激賞する声が在る一方で、「設定が唐無稽過ぎる。」とか「登場人物達の描き方に、深みが無い。」等の低評価も目立つ。
で、自分の場合はどうかと言えば、「純粋に面白かった。」という評価。確かに突っ込み所を捜せば、幾つも挙げられるだろう。「荒削り。」という評価も在ったけれど、其の通りかもしれない。でも、「一体、何が起こっているんだろうか?」と興味を惹かれたし、ストーリーの中にグイグイ引き込まれて行ったという事実を前にして、彼此指摘するのは、個人的に野暮な気がするのだ。小松左京氏の「日本沈没」や高野和明氏の「ジェノサイド」を読んだ時の様な、何とも言えない高揚感が在った。
選考委員の1人が此の小説に付いて、「文章、キャラクター、設定、全てにB級テイストが濃厚だが、B級っ振りも此処迄徹底すれば立派。」と記していたが、至言に思う。
近年、「『このミステリーがすごい!』大賞」の受賞作には詰まらない物が多かったけれど、久々に「面白い!」と言える作品に出会えた。第4回(2005年)の大賞受賞者・海堂尊氏の様に、売れっ子作家になれる素質を感じた。総合評価は、星4つとする。
「残らない。」というのは、判らないでも無いです。個人的には「凄く面白かった。」けれど、じゃあ「10年後に、内容を明瞭に覚えているか?」と問われると、「うーん・・・。」という感じだし。
でも、読み終えて感じた印象が、後になって変わって行くというのも在りますよね。以前も書いたのですが、久保寺健彦氏の小説「空とセイとぼくと」(http://blog.goo.ne.jp/giants-55/e/fddc348b1e4a7399fc040d593fab4655)なんかは、月日が経つ毎に何故か印象が強くなって行くという、実に不思議な作品でした。
「気楽に読める。」という点で西村京太郎氏の作品は好きなのですが、如何せん似た様なタイトルが多く、内容的にもパターンはそんなに変わらないという事も在り、昔は良く「既読の作品を、誤って再度購入してしまった。」なんて事が在りましたね。