
過去に何度か書いたが、自分は手塚治虫氏の大ファンだ。一番最初に読んだ手塚作品は、虫プロ商事が発行していた雑誌「月刊てづかマガジンれお」に再収録された「植物人間」という作品だったと思う。此の作品は「鉄腕アトム」の第42話に当たり、物悲しい結末が印象的だった。
最初に購入した手塚作品となると、今は無き朝日ソノラマから刊行された「ノーマン」で、小学校の低学年の時(以前の記事では「小学校に入って間も無い頃」と記したが、其れよりは暫く後の様だ。)だったと思う。宇宙を舞台にした壮大なストーリーと、個性的なキャラクター達にすっかり魅了され、以降手塚作品を読み漁る事になる。
手塚作品からは様々な知識を得た自分にとって、「手塚治虫」という人物は単なる「漫画家」では無く、「クリエーター」や「思想家」といった存在。偶然にも連れションする機会を得たが、其の際には話し掛ける事すら出来なかったし、手塚ファン歴ウン十年で在り乍らサイン色紙は1枚も持っていないしと、「自分の様な俗人が、手塚氏に近付くのは恐れ多い。」という気がずっと在ったのだ。
手塚氏が一生涯で生み出した作品は余りに多く、其の全ては所有出来ていない。しかし「恐らく99%近くは所有しているのではないか。」とは思っているし、其れが数少ない自慢の一つでも在る。
以前、「手塚治虫作品ベスト10」を選んだ際、1位は「ブラック・ジャック」だった。余りにも有名な作品故、「定番中の定番とも言える作品を1位にするのは、何か気恥ずかしいなあ。」とは思ったのだが、一番好きな作品なのだから仕方無い。そして便宜的に順位付けしたものの、2位以下の作品何れもが印象的で、「マイナーな漫画だけど好き」という記事で取り上げた「ロロの旅路」(ベスト10では2位にした。)は「ブラック・ジャック」と並んで1位にしたかった程。同じく「一般的にはマイナーな作品」という事になろうが、7位の「荒野の七ひき」も忘れられない作品だ。
「一般的にはマイナーな作品」と言えば、ベスト10には入れなかったのだけれど、「安達が原」という作品が脳裏に焼き付いている。
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殺し屋として名高いユウケイは、或る星に降り立った。此の星に住み、「魔女」と噂されている老女を殺す為だ。年齢不詳の老女はユウケイに手料理を振る舞ってくれるが、用心した彼は毒消しの薬を料理に振り掛けて食す。
食後、ベッドに入るユウケイ。周りが静まり返った所で、彼は天井に穴を空ける。予想していた通り、其処には毒ガスを流す為の配管が施されていた。そして発見した地下室には、無数の白骨が転がっていた。
「矢張り魔女だったのだ。」と確信するユウケイの前に現れた老女は、「御前を殺す積りは無かった。」と言い、更に「殺される前に、御前の身の上話を聞かせて欲しい。」と懇願。其処で彼は、老女の“最後の願い”を受け容れ、自らの過去を話し始める事にするが・・・。
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範疇で言えば「SF作品」という事になるのだが、能等の演目にもなっている「安達ヶ原の鬼婆伝説(黒塚の伝説)」が下敷きになった作品で在る。過去の名作を下敷きにした物が手塚作品には幾つか在り、自分の場合「罪と罰」や「新選組」等は手塚作品で初めて触れ、「安達ヶ原の鬼婆伝説」も同様だ。
「魔女の意外な正体」に驚かされる。そして「其れを知った時のユウケイの思い」を想像すると、何とも言えない思いに。毒消しの薬を料理に振り掛けた事が、後になって堪らない程の哀しみを読者に与える事だろう。手塚作品の特徴とも言える「哀し過ぎる結末」が、此の作品でも待ち受けている。
未読の方は、是非読んで戴きたい。(中々書店には並んでいないとは思うが、「手塚治虫漫画全集」(B6版)の第61巻、そして「手塚治虫文庫全集」ならば第28巻(BT28)の「ライオンブックス1」内に、此の作品は収録されている。)
本当にこれは、あまりにも哀し過ぎる、驚きの結末でした。ネタ晴らしをせずに巧くこの作品の魅力を紹介されたところに脱帽です。
仰る様に、20年前に此の作品はアニメ化されていますね。自分はアニメ版の方は見ていないのですが、原作は兎に角切なさが募りました。