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人民寺院:1955年にアメリカのインディアナ州マリオン郡インディアナポリスで創設された社会主義キリスト教系カルト集団。創設者及び教祖はジェームス・ウォーレン・"ジム"・ジョーンズ。ジョーンズはキリスト教と共産主義や社会主義の考え方とを組み合わせ、人種平等を訴えた。1978年11月18日、南米ガイアナで人民寺院が開拓したコミューンのジョーンズタウンで大量殺人、若しくは集団自殺によって、信者918人が命を落とした。又、同日には、アメリカ下院議員のレオ・ライアン氏と其の代表団のメンバー4人が、ポート・カイトゥマ空港で人民寺院信者によって惨殺されている。此のジョーンズタウンでの惨劇は、2001年9月11日に「アメリカ同時多発テロ事件」が発生する迄、アメリカ最多の被害者数を記録した事件だった。
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今から45年前に発生した所謂「人民寺院の大量殺人事件」は、当時、世間を大いに震撼させた。自分もリアル・タイムで此の事件の報道を見聞したが、「何故、こんな大量殺人事件(乃至は集団自殺)が発生したのだろうか?」と不思議でならなかったし、又、カルト集団の恐ろしさを思い知らされた事件だった。
此の実在する事件を題材に、そして事件其の物は忠実に描き乍ら、フィクションの要素も盛り込んだ小説が、今回読んだ「名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件」(著者:白井智之氏)で在る。此の作品は「2022週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」及び「このミステリーがすごい!2023年版【国内編】」で其れ其れ2位、そして「2023本格ミステリ・ベスト10【国内編】」では1位に選ばれている。
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病気も怪我も存在せず、失われた四肢さえ蘇る、奇蹟の楽園“ジョーデンタウン”。調査に赴いた儘戻らない助手を心配し、教団の本拠地に乗り込んだ探偵・大塒宗(おおとや たかし)は、次々と不審な死に遭遇する。
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「名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件」が一般的なミステリーと稍違うのは、「探偵の大塒宗よりも、助手の有森りり子(ありもり りりこ)の方が推理力が優れている。」という事と、「現実には在り得ない出来事を、“奇蹟”として盲信している信者達に対し、“彼等が納得するで在ろう推理”、そして“常識的に納得出来る推理”を同時に提示し、“或るテクニック”によって“常識的に納得出来る推理”を受け容れさせる。」という事。後者で言えば、「手足を失っているのに、奇蹟によって手足が“復活”したと盲信している様な信者達。」にとっては、どんな事態でさえ“普通に在り得る事”と信じ切っているのだから、当たり前の推理を受け容れてくれないのだ。
どんでん返しに次ぐどんでん返し、そして最後の最後に待ち受けている大どんでん返しは、此の作品が高く評価されている大きな要因だろう。大どんでん返しが明らかになった際、タイトルの“名探偵のいけにえ”が持つ意味合いが理解出来た。
引き込まれる内容の作品では在るのだけれど、登場人物達に全く感情移入出来ない。設定が余りにも非現実的な事に加え、登場人物達自身が惨劇に対して、そんなに心を揺り動かされていない様な感じなのが、そうさせるのだろう。
総合評価は、星4つとする。