ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「虚夢」

2008年08月07日 | 書籍関連
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刑法第39条 心神喪失及び心神耗弱

第1項 心神喪失者の行為は、罰しない。
第2項 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
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処女作天使のナイフ」では「少年法が抱える様々な問題点」を、第2作「闇の底」では「正義とは何か?」をテーマに描いて来た薬丸岳氏。そして第3作「虚夢」では、「心神喪失者の犯罪及び精神鑑定」をテーマとしている。尚、「虚夢」という言葉に付いて冒頭に「事実に合わぬ夢。実際には起こらない事の夢。」と説明されている。

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通り魔に娘・留美を殺され、妻・佐和子も瀕死の重傷を負わされた三上孝一。12人もの人間を殺傷して逮捕された21歳の男・藤崎裕之は、精神鑑定の結果「統合失調症」と診断される。「心神喪失者の行為は、罰しない。」という刑法第39条の規定により、藤崎は精神科へ入院する事に。愛する身内を惨殺した人間が死刑になるどころか、刑務所にも行かず、罪にも問われず、裁判にすらかけられないという現実に憤りを覚える被害者家族達。孝一と救命された佐和子も、その理不尽さに懊悩する日々を送る。やがて、事件によってPTSD発症した佐和子。夫婦関係は破綻来たし、2人は離婚する事に。

事件から4年後、孝一の携帯に佐和子から電話が入る。3年前に別れてから一度も連絡を取り合っていなかった元妻は、「さっき、あの男と擦れ違ったの。」と口にした。娘を殺して入院したあの男、藤崎を街中で見掛けたと言うのだ・・・。
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他者の心の奥底を、一体何処迄正確に把握出来るのか?「精神鑑定」という記事で、自分は疑問を呈した。この作品の中でもそもそも人間の心の中に在る正常と異常の境目を、他人で在る精神科医がどうやって判断出来るのだろうか。人を殺しても仕方が無い、罪に問われないとする精神状態とは一体どういうものなのか。刑法39条は、酒で酩酊状態になったり、覚醒剤等の麻薬で幻覚や妄想に襲われても適用されるそうだ。この国では麻薬やアルコールに勢いを借りて凶悪犯罪を犯しても減刑されたり無罪になったりする。酒や麻薬等は自らの意思で遣っているにも拘わらずだ。等、精神鑑定を絶対視している現状に一石を投じる様な文章が散見される。

加害者の人権が蔑ろにされて良いとは思わないが、と言ってそれを擁護(悪用?)する余り、被害者の人権がズタズタにされてしまってはならない。

「精神障害者の犯罪率は健常者に比べて高くは無い。精神障害者は決して危険な存在では無い。再犯率も低いのだと言う。」という文章がこの作品に記されている。(漫画「ブラックジャックによろしく」でも、同じ様な記述が在ったと思う。)精神障害者と健常者の犯罪率に差が無いので在れば、刑罰の面でも差を付ける必要は無い様に思う。刑罰の面で差を付けているからこそ、精神障害を装う不埒な犯罪者が出て来るのだし、大勢の善良な精神障害者に対する差別を生み出してしまうのではないだろうか?

「精神障害者による犯罪をマスコミがタブー視する事で、恐怖の闇が一層深くなって行くのだと感じます。」という文章にも同感。

最初は繋がりを見出せなかった人間関係が、ストーリーの展開と共に密接な関係で在る事に気付かされる。ミステリーの醍醐味の一つ「どんでん返し」も上手く決まっている。「天使のナイフ」及び「闇の底」で星4.5個という高い評価を与えた作者の天才性は、この作品でも光っている。

総合評価は星4つ

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2 コメント

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統合失調症に対するイメージ ((まめ)たぬき)
2008-08-07 10:06:42
>大勢の善良な精神障害者に対する差別を生み出してしまうのではないだろうか?

おっしゃるとおり、統合失調症に対するイメージは非常に悪いです。

私の身内(2人います。1人は職場の理解もありマトモに生活してますが、発病時期の古いもう1人は長期入院したまま)や友人の身内(こちらは他人様のことゆえ推測)に統合失調症の患者はいますが、世間様の持つ「いつ犯罪を起こしてもおかしくない」イメージとはかけ離れております。
1つの病名でくくられてはいるものの、1人1人に出る症状にかなりばらつきがあり、幻聴に支配されてしまって犯罪を犯す人がないわけではありませんが、こうして作家の中にも理解がある人がいる、というのはありがたいことです。
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>(まめ)たぬき様 (giants-55)
2008-08-07 13:34:24
書き込み有難う御座いました。今回はこちらにレスを付けさせて貰います。

一部ネタバレになってしまうのですが、この作品の中で作者は「精神障害者を危険視する思考に警鐘を鳴らす。」と同時に、「統合失調症を“装って”犯罪を為そうとする者を登場させる事で、精神鑑定が絶対的では無い。」事も指摘しています。重要なのは「真に病を患っている者に対しての差別&偏見を無くす。」事と、「犯罪を犯した者が、病を“悪用”して罪を逃れる事は許されない。」という事かと。
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