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「第1章 幻惑す(まどわす)」
ビル5階に在る新興宗教の道場から、信者の男が転落死した。其の場に居た者達は、「男が何かから逃れる様に、勝手に窓から飛び降りた。」と証言し、教祖は相手に指一本触れなかったものの、自分が強い念を送って男を落としてしまったと自首して来た。教祖の“念”は本物なのか?天才的な頭脳を有する物理学者・湯川学は、教団に赴き、絡繰りを見破る。
「第2章 心聴る(きこえる)」
突然暴れ出した男を取り押さえ様として、刑事の草薙俊平は刺されてしまった。逮捕された男は幻聴の所為だと供述した。そして男が勤める会社では、ノイローゼ気味だった部長が少し前に自殺し、又、幻聴に悩む女子社員も居た。幻聴の正体とは、一体何なのか?
「第3章 偽装う(よそおう)」
大学時代の友人の結婚式の為、山中のリゾート・ホテルに遣って来た湯川と草薙。其の日は天候が荒れて道が崩れ、麓の町との行き来が出来なくなってしまう。そんな中、ホテルから更に奥に行った別荘で、夫婦が殺されているとの通報が入る。草薙は現場に入るが、草薙が撮影した現場写真を見た湯川は、事件のおかしな点に気付く。
「第4章 演技る(えんじる)」
劇団の演出家が殺された。凶器は芝居で使う予定だったナイフ。だが劇団の関係者には皆、確かなアリバイが在った。湯川は、残された凶器の不可解さに着目する。
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大好きな作家の1人、東野圭吾氏。満足度の高い作品を次々に生み出している彼だが、中でも「ガリレオ・シリーズ」は面白い。一見「超常現象」とも取れる“不可解な事件”を、天才物理学者の湯川が「科学」を用いて謎解きして行くシリーズで、「ガリレオ」とは其の明晰な頭脳を崇める捜査一課が、湯川に付けた呼び名で在る。
自分が東野作品を愛する理由は幾つか在るが、「理系テーストを感じる作品が少なく無い。」というのも大きい。典型的な文系人間の自分には、そういったテーストが、とても興味深く感じるのだ。
4つの短編小説で構成された「虚像の道化師 ガリレオ7」も、不可思議な事件が登場する。「第1章 幻惑す」のトリックなんぞは中々面白いし、「第4章 演技る」の真犯人には意外性が在った。しかし、全体的に言えば、「えーっ!」という驚きが殆ど無く、“小粒な作品の寄せ集め”という感は否めない。
又、何よりも不満なのは、登場人物達の人間描写。内面的な“深掘り”がされておらず、其れ故に「作品への感情移入」が出来なかった。東野作品では、非常に稀有なケースと言って良い。
総合評価は、星3つといった感じか。