“ディベートの世界”に生きている人

一昨日、小泉純一郎元首相が麻生太郎首相の政治姿勢を厳しく批判した。麻生首相が郵政民営化の見直しを口にした事に関しては「怒るより笑っちゃう程、唯々呆れている。」と郵政民営化の推進を、そして国民の多くが反対している定額給付金に関しては「本当に３分の２（の衆議院での再議決）を使ってでも成立させねばならない様な法案とは思っていない。」と法案の見直しを主張。個人的に言えば、この２つの点に関しては全く同感で在る。

唯、以前にも書いた様に、自身の政権下で生み出した数多の“負の遺産”が我が国をガタガタにした大きな要因と言うのに、その張本人たる小泉元首相が今更正論ぶった事を口にしても、正直心に響く物が無い。「政治で一番大事なのは信頼。総理の発言が国民に信頼されなければ、選挙は戦えない。」とも口にした様だが、あれだけ「旧態依然とした柵をぶち壊す！」と言っていた癖に、その旧態依然とした柵の象徴とも言える「世襲」を平然としようとしている厚顔無恥さこそ、国民の信頼を失わせる物ではないのか？

「抵抗勢力」を作り上げ、それに闘いを挑むというスタンスで国民の人気を得て来た“空虚な英雄”。そんな虚像に、嘗ての自分も騙された。そんな小泉元首相だからこそ、今回の動きにも“裏”をどうしても感じてしまう。「このまま衆議院議員総選挙に突入したならば、自民党の候補者の多くが“討ち死に”する事だろう。それならば『麻生太郎を中心とする抵抗勢力』を作り上げる事で、『それに立ち向かう小泉チルドレンを中心とした自民党候補者達』という構図が出来上がり、其処に国民の支持がどっと流れる。その結果、自民党の痛手は少なく済むだろう。」という小泉元首相の企てが在るのではないか？一寸前に麻生首相支持を打ち出した森喜朗元首相が、小泉元首相の今回の発言に猛烈な怒りを表していたが、一昨年の“チーズ・バトル”と同様に世論を小泉元首相有利に動かす為の“猿芝居”の再現ではないのか？様々な疑念が頭に浮かぶ。

自分が知る限り、小泉元首相は自身が打ち出して来た政策の総括をしていない。「政策の是非を判断するには、相当の時間が掛る。」という“言い訳”が在るのかもしれないが、これだけ国をガタガタにして国民生活を悪化させた以上は、現段階での総括はすべきだと思う。

小泉政権下で経済や金融政策を中心となって推し進めて来た竹中平蔵氏は、最近になってこれ等の政策に付いてテレビ番組等で振り返っているが、その発言を見聞していると非常に興味深い事が判る。「～というマイナス点が指摘されているのは理解している。」といった事を先ずは口にして国民の怒りを“ガス抜き”させ、それ以降は「でも～。」と一貫して自身の政策の正当性を主張し続けてるというパターン。つまり一瞬は「あの政策が間違いだったと認めたののか？」と見聞している側に思わせ乍ら、結局は全てに於いて自身の正当性を主張しているだけという内容なのだ。

小泉元首相も竹中氏も“ディベートの世界”に生きている人という感じがする。現実を直視する事無く、机上の空論のみを延々と主張し続ける。現実を直視していないからこそ、「自分の主張こそが唯一無二的に正しい。」とディベートで勝ちを競っているかの様な、マスターベーションに耽溺しているのではないか。＊１

人間誰しも間違いは犯すもの。重要なのはその間違いを素直に認めた上で、状況を改善する為には何をすべきかを考える事。それが出来ない小泉元首相や竹中氏がどれだけ立派な事を口にしようと、説得力が減じてしまうのは当然かと。

＊１　ディベート番組を見るのは好きだし、ディベートその物を否定している訳では無い。あくまでも政治の世界で、マスターベーション的な主張合戦をしている事が不毛という事。