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・医師・田口公平(たぐち こうへい)の下で研修に励む桜宮(さくらみや)すみれ&小百合(さゆり)の姉妹。外来患者の夫の異変に気付いたすみれは、或る斬新な治療法提案する。(「双生」)
・「十字星を見たい。」。看護師の如月翔子(きさらぎ しょうこ)は、手術を拒否し続ける少年・村本亮(むらもと りょう)の願いを叶える為、便利屋・城崎(しろさき)を呼び出し・・・。(「星宿」)
・末期癌の妻・千草(ちぐさ)が入所した東城大学医学部付属病院のホスピスは、治る希望を捨て、死を受け容れるという方針だった。夫・章雄(あきお)は反発するが・・・。(「黎明」)
・新人弁護士・日高正義(ひだか せいぎ)は、「バチスタ・スキャンダル」の被疑者の下を訪れる。弁護の拒否を続ける被疑者・氷室貢一郎(ひむろ こういちろう)に、日高は或る提案を持ち掛けて・・・。(「氷獄」)
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海堂尊氏の小説「氷獄」は、田口・白鳥シリーズの最新作。第1弾「チーム・バチスタの栄光」が上梓されたのは、今から13年前の2006年の事。海堂氏の文壇デビュー作だったが、独創的な設定や完成度の高い筆致に、「凄い新人が登場したなあ。」と驚嘆したものだった。以降、多くのシリーズ作が生み出され、今回の作品が何作目なのか判らない程。
「氷獄」は4つの短編小説から構成されているが、タイトルとなっている「氷獄」は、「チーム・バチスタの栄光」の其の後を描いている。具体的に言えば、「バチスタ・スキャンダル」が発生した2年後の2008年から、“今”に到る約11年間だ。
田口・白鳥シリーズを全て読んで来た者としては、懐かしい人物や設定が次々に登場する。学生時代、弁護士に関心を持っていたという事も在り、個人的には「氷獄」が一番印象に残る作品だった。
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「ここまで来てまだそんなことを言ってるの?今の検察は悪代官が牛耳る奉行所さ。奉行所は悪くない。でもいつの世も悪代官がいて、そいつがのさばれば奉行所は悪いことになる。検察も同じさ。良心的な検察官も大勢いる。むしろ圧倒的多数だ。でも善は弱者、悪は絶対的な強者だから悪者に権力を握らせまいと多数決が原則の衆愚的な民主主義ができたんだ。なのに愚昧な大衆はものごとを正しく判断するのが億劫で、親切そうで声が大きいおバカにすべてを委任してしまう。そうしてできあがった奇形が現在の検察さ。だから検察を『悪の権化』とか『悪の巣窟』と呼んでも構わないんだ。僕が許可するよ。」。
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「チーム・バチスタの栄光」のインパクトが余りに大きかった事も在り、続編が上梓される度に物足り無さを感じてもいた。今回の「氷獄」でも、其の思いは弱まる事が無かった。マンネリ感は否めない。
唯、シリーズが人気となり、長期化すればする程、設定の誤謬が出て来たりするもの。西村京太郎氏の「十津川警部シリーズ」なんぞは突っ込み所が結構在ったりするが、「田口・白鳥シリーズ」は幅広い時代を描いている割には、そういう設定の誤謬を見受けられないのは立派。
総合評価は、星3つとする。