何気無い言動が、他者に大きな影響を与える。有名人の言動が元ならば、其の影響力は結構な物になるだろう。
子供の頃、夢中になって見ていたドラマ「キイハンター」【動画】や「アイフル大作戦」【ドラマ】では、出演している千葉真一氏や谷隼人氏の所作が、実に格好良かった。特に彼等のアクション・シーンに魅了され、自身の運動神経の鈍さを顧みず、良く真似した物だった。「ガードレールを見掛けると、小走りで近付き、片足をヒョイと上げて飛び越える。」というのもそうで、良い年になる迄していたが、「思っていた以上に足が上がらず、ガードレールに足を取られてすっ転び、恥ずかしい思いをした。」事で、しなくはなったが。
萩本欽一氏が週刊文春に、「欽ちゃん77歳のボケないキャンパス珍道中」なるコラムを連載している。7月12日号は「正統なラーメンの食べ方」というタイトルだったが、有名人の言動の影響力の大きさを感じさせる話が紹介されていた。
現在、駒澤大学の学生でも在る欽ちゃん。通学にはタクシーを利用していて、時々、運転手から話し掛けられる事が在るそうだ。或る日、乗車したタクシーの運転手と、次の様な会話が在ったと言う。
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その日も「欽ちゃんは、いまでもラーメンをテレビでやっていたみたいに食べているんですか?」と唐突に言われたんだ。「なんの話?」と、聞いたら、今度はぼくがコント55号をやっていたときに、話がさかのぼっていった。
彼が話したのは、(坂上)二郎さんがラーメンを食べているシーンでね。「食べ方が一流じゃない。ラーメンってのは、お汁をズズっと吸ってだネ、割りばしを丼に投げ入れて、カラカラーンと音をさせる。これが粋な食べ方なんだ。」と、ぼくがツッコミを入れたそうなんだ。
おそらくはアドリブでやっていたはずのシーンだし、記憶には全く残っていない。でも、子供の頃にコント55号を見ていた運転手さんは、それを今でも覚えていると言うわけだ。
「あれを見て以来、私はスープを最後まで飲みほして、割りばしをカラカラーンとやり続けてきたんです。」。
それで、さらに後輩たちにも「これがラーメンの正統な食べ方だ。」と伝えてきた、と。
ぼくにとっては些細なアドリブだったシーンに、何十年間と影響を受けてきた人がいる―。そう思うと、何だか申し訳ないような、少し嬉しいような、複雑な気分になってきちゃってさ。
「お父さん、ごめんね。俺、五十歳になったときから、お医者さんに『ラーメンやうどんの汁は飲まないように。』って言われてるんだ。お父さんも五十を過ぎてるんだから、塩分に気を付けて、これからは飲まないほうがいいよ。」。
そう言って謝ったの。そうしたら、彼は少し困った様子で、「でも、何十年とそうやって食べてきたから、今更やめられないなァ。」と言っていたよ。
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