「東北地方太平洋沖地震 」発生以降、被災された方々のみならず、非被災者の間でも体調不良を訴える人が結構出ていると聞く。余りにも衝撃的で不安を感じさせる報道に連日触れている事で、精神的にも肉体的にも疲労しているのだろう。斯く言う自分も少々グロッキー気味で、昨日は記事を書く気力が湧かなかった。塗炭の苦しみを舐めておられる被災者の方々を思えば、非被災者の自分が弱音を吐いてしまうのは本当に申し訳無い事なのだけれど・・・。
10日連続で大震災関連の記事を書き続けて来たが、今日は3週間程前に読んだ小説に付いてレヴューしたい。本当の事を書けば「プロ野球順位予想」と共に、大震災前に書き終えていた記事だ。未曽有の大惨事を受けて「呑気な記事をアップするのは如何な物か?」と控えていたのだが、多くが心身共にストレスを感じている中、「現実を少しでも忘れさせてくれる様な記事も必要かもしれない。」と思い、今日から「以前の様な記事」も書いて行きたいと決断した。人によっては「不謹慎だ。」とい思われる方も当然居られ様が、「考え方は千差万別。」と御容赦願いたい。
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蔵波奈都は小学校6年生。引っ越して来た父の実家は、古くて大きな御屋敷で、しかも不吉な言い伝えが在ると言う。弱った奈都が頼ったのは、1人の謎めいた女子中学生のさゆりだった・・・。
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元書店員の経歴を活かして「配達あかずきん 成風堂書店事件メモ」に「晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)」、そして「サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ」と書店を舞台にしたミステリーを著して来た大崎梢さん。そんな彼女が「書店を舞台にしていないミステリー」として初めて著したのが、此の程読了した「片耳うさぎ」。
父が事業に失敗した為、住んでいた東京近郊の分譲マンションを売り払い、父の実家に転がり込む羽目になった奈都。3LDKのマンションから部屋数が十幾つも在る大きな屋敷に住む事になった彼女は、喜びよりも苦痛ばかりを感じている。農村地帯に在るだだっ広い屋敷は近所から「御化け屋敷」とも呼ばれる古さで、其れに加えて祖父や祖父の姉、伯父一家等、御手伝いさんを含めると十人を超える大所帯と、此れ迄3人(父母と奈都)で暮らして来た奈都にとっては全く異なった環境。御負けに祖父や祖父の姉は奈都一家の居候を歓迎していない節が在り在りなのだから、奈都が苦痛を感じるのも当然だろう。そんな或る日、母方の祖母の具合が悪くなった為、母が看病に行かなければいけなくなってしまう。父は新たに事業を立ち上げるべく海外に行っており、数日は父母抜きで居心地の悪い屋敷に暮らさなければならなくなった奈都。心細い彼女に「遊びに行って上げる。」と声を掛けてくれたのは、同級生・一色祐太の姉と言うさゆりだった。
気が触れた様な不気味な老婆、隠し部屋や隠し階段の在る古びた大屋敷、天井裏で出くわした謎の人物等々、「八つ墓村」を始めとした“横溝正史ワールド”を感じなくも無いが、全体的には暗い感じが在る訳では無い。結びはハッピーエンドだし。
「片耳うさぎ」という不可思議なタイトルに興味を惹かれたし、不気味な伝承をモチーフにしている点も悪くない。大崎さんは、書店物以外でも十二分に魅力的な作品を書ける作家だ。唯、或る人物達の意外な正体には驚かされるも、設定としてはやや無理さを感じてしまった。其の辺がミステリーとしては、減点ポイントと言えるかもしれない。総合評価は星3つ。