第7回(2008年)「このミステリーがすごい!」大賞の最終候補に残ったのは5作品で、結果としてその内4作品が大賞乃至は優秀賞に選ばれた。全体的にレベルの高い争いだったという証拠かもしれない。大賞に選ばれた「臨床真理」、そして優秀賞に選ばれた「毒殺魔の教室」及び「霊眼」は既に読破したけれど、これ等の作品に関しては受賞も頷けなくは無い内容。そして今回、最後に残った大賞作「屋上ミサイル」(著者:山下貴光氏)を読む事に。
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アメリカ大統領がテロ組織に拉致監禁されるという未曾有の事態が発生。幾つかの軍事基地をも占拠した彼等は、世界に向けて大陸間弾道ミサイルの発射を予告した。
世界的危機が迫る中、日本の高校生達にとってはそれも遠い国の出来事だった。彼等の身近には、もっと重要な事が在ったから。美術デザイン科2年の辻尾アカネの場合、美術の課題で在る「絵画作成」が最優先事項だった。スケッチする為に上った校舎の屋上で彼女は、リーゼント頭の不良・国重嘉人や、恋愛成就の願掛けとして「言葉を封印した」沢木淳之介、自殺願望を持つ平原啓太の3人と知り合う。「屋上に対する愛情が共通している。」とする国重の強引な提案で、“屋上部”を結成する事になった彼等。屋上の平和を守る為、通行人を襲う罰神様騒動、陸上部のマドンナへのストーカー事件、殺し屋との遭遇等に巻き込まれる事になる。そしてそれ等は全て、1つの事件に繋がっていた。
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「このミステリーがすごい!」大賞は4人の選考委員によって最終選考が行われるが、巻末にはこの4人の選評が載っている。最終候補に残った5作品のレベルの高さを殆どが指摘する一方で、興味深いのはそれぞれが大賞に推す作品が真っ二つに割れた事。「『臨床真理』に『大賞に相応しいとするA評価』を付けた2人の選考委員は、『屋上ミサイル』には『対象外とするC評価』を付け、もう2人の選考委員は『屋上ミサイル』にA評価、そして『臨床真理』にはC評価を付けた。」と言うのだ。これ程に評価が相反する選考というのも珍しいだろう。
「屋上ミサイル」にC評価が下された理由としては、「“小説上の”リアリティーの無さ」と「作品自体のオリジナリティーの無さ。」等が挙がっていた。前者は、「現実的なリアリティーの無さ」を指摘しているのでは無い。荒唐無稽でも全く構わないのだが、余りに偶然性に頼った展開が目立ち、その為に「小説上のリアリティーすら無い。」としている。この指摘には全く同感で、御都合主義が此処迄目立つと、読んでいて白けてしまう。
そして後者は、伊坂幸太郎氏の作風との類似性を指摘している。その設定や台詞回しは確かに似ており(「終末のフール」の雰囲気に一番近いかも。)、その点でオリジナリティーが感じられないという訳だ。自身の作品に過去の名作を意識して取り入れるのは悪い事では無いけれど、其処にかなりのプラスアルファが無ければ、それは単なる物真似に過ぎない。
そういったマイナス評価が下される一方で、高い評価を得たのは「魅力的なキャラクター設定と文体」。しかし個人的には、この点に於いても疑問が残った。各キャラクターの設定がきちんと色分けされているのは認めるも、文体は決して魅力的では無く、読み進めるのがやや苦痛になる程のレベルだったから。ハッキリ言って、今回大賞乃至は優秀賞に選ばれた4作品の中では、最も劣る作品に感じた。「何でこの作品が大賞なの?」という思いが在る。
総合評価は星2.5個。
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アメリカ大統領がテロ組織に拉致監禁されるという未曾有の事態が発生。幾つかの軍事基地をも占拠した彼等は、世界に向けて大陸間弾道ミサイルの発射を予告した。
世界的危機が迫る中、日本の高校生達にとってはそれも遠い国の出来事だった。彼等の身近には、もっと重要な事が在ったから。美術デザイン科2年の辻尾アカネの場合、美術の課題で在る「絵画作成」が最優先事項だった。スケッチする為に上った校舎の屋上で彼女は、リーゼント頭の不良・国重嘉人や、恋愛成就の願掛けとして「言葉を封印した」沢木淳之介、自殺願望を持つ平原啓太の3人と知り合う。「屋上に対する愛情が共通している。」とする国重の強引な提案で、“屋上部”を結成する事になった彼等。屋上の平和を守る為、通行人を襲う罰神様騒動、陸上部のマドンナへのストーカー事件、殺し屋との遭遇等に巻き込まれる事になる。そしてそれ等は全て、1つの事件に繋がっていた。
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「このミステリーがすごい!」大賞は4人の選考委員によって最終選考が行われるが、巻末にはこの4人の選評が載っている。最終候補に残った5作品のレベルの高さを殆どが指摘する一方で、興味深いのはそれぞれが大賞に推す作品が真っ二つに割れた事。「『臨床真理』に『大賞に相応しいとするA評価』を付けた2人の選考委員は、『屋上ミサイル』には『対象外とするC評価』を付け、もう2人の選考委員は『屋上ミサイル』にA評価、そして『臨床真理』にはC評価を付けた。」と言うのだ。これ程に評価が相反する選考というのも珍しいだろう。
「屋上ミサイル」にC評価が下された理由としては、「“小説上の”リアリティーの無さ」と「作品自体のオリジナリティーの無さ。」等が挙がっていた。前者は、「現実的なリアリティーの無さ」を指摘しているのでは無い。荒唐無稽でも全く構わないのだが、余りに偶然性に頼った展開が目立ち、その為に「小説上のリアリティーすら無い。」としている。この指摘には全く同感で、御都合主義が此処迄目立つと、読んでいて白けてしまう。
そして後者は、伊坂幸太郎氏の作風との類似性を指摘している。その設定や台詞回しは確かに似ており(「終末のフール」の雰囲気に一番近いかも。)、その点でオリジナリティーが感じられないという訳だ。自身の作品に過去の名作を意識して取り入れるのは悪い事では無いけれど、其処にかなりのプラスアルファが無ければ、それは単なる物真似に過ぎない。
そういったマイナス評価が下される一方で、高い評価を得たのは「魅力的なキャラクター設定と文体」。しかし個人的には、この点に於いても疑問が残った。各キャラクターの設定がきちんと色分けされているのは認めるも、文体は決して魅力的では無く、読み進めるのがやや苦痛になる程のレベルだったから。ハッキリ言って、今回大賞乃至は優秀賞に選ばれた4作品の中では、最も劣る作品に感じた。「何でこの作品が大賞なの?」という思いが在る。
総合評価は星2.5個。
バブル期の頃は文学賞も粗製乱造の如く作られもしましたが、それなりのコンセプトが無い文学賞はやはり消えて行きましたね。「文学賞を主催している出版社の作品が受賞し易い。」なんていうのも無くは無いけれど、読み手も目が肥えて来ているので、そういった類いの作品には辛口の評価が付き勝ち。
「このミステリーがすごい!」大賞の場合は、途中経過をネット上で公表する等、割合まともな類の賞だとは思っているのですが、それでも「これは話題性で授賞したのでは?」と思ってしまう作品が過去に無かった訳では在りません。今回の「屋上ミサイル」はその手の作品では無いとは思うものの、少なくとも自分の感性に合う物では在りませんでした。
昔は書店で「面白そう。」と思った作品をポンポン買っていましたが、御多分に洩れず懐事情が厳しくなった為、近年は専ら図書館で借りて読む事が多くなりました。そういった行為が作家の経済状態を悪くし、延いては読み手の側にも不利益を被らせるのは判っているのですが・・・。
伊坂作品、本当に面白いです。彼の作品を数年前迄は「面白くない。」と遠ざけていたのが、今では考えられない。
私的には、とても面白かったと思います。
今まで読んだ中で一番好きなほんでした!
此の作品、続編が出ましたね。個人的には評価が高くなかったけれど、一般的には評価が高いからこそ、続編と相成ったと思います。若き才能が芽を出すのは、文壇が活性化するので、非常に喜ばしい事。