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扁桃体が人より小さく、怒りや恐怖を感じる事が出来ない16歳の高校生、ユンジェ。そんな彼は、15歳の誕生日に、目の前で祖母と母が通り魔に襲われた時も、唯黙って、其の光景を見詰めているだけだった。母は、感情が判らない息子に「喜」、「怒」、「哀」、「楽」、「愛」、「悪」、「欲」を丸暗記される事で、「何とか“普通の子”に見える様に。」と訓練して来た。だが、母は事件によって植物状態になり、ユンジェは独りぼっちになってしまう。
そんな時現れたのが、もう1人の“怪物”、ゴニだった。激しい感情を持つ其の少年との出会いは、ユンジェの人生を大きく変えて行く。怪物と呼ばれた少年が、愛によって変わる迄。
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韓国の作家ソン・ウォンピョンさんの「アーモンド」は、2017年に上梓され、韓国内で熱狂的な支持を集めた作品。そして、第17回(2020年)本屋大賞の翻訳小説部門で1位にも輝いた。
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失感情症(アレキシサイミア):自らの感情を自覚・認知したり表現する事が不得意で、空想力・想像力に欠ける傾向を持つ情緒障害。児童期に情緒発達の段階をきちんと経る事が出来なかったり、深刻なトラウマを負った場合、或いは先天的に偏桃体が小さい場合に発生するとされている。偏桃体が小さいと、感情の中でも特に恐怖を余り感じる事が出来ない。
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偏桃体は「側頭葉内に存在する“アーモンド形の神経細胞の集まり”で、情動反応の処理と記憶に関して大きな役割を果たしている。」とされ、作品のタイトル「アーモンド」は偏桃体を意味している。主人公のユンジュは失感情症で、様々な感情を理解する事が出来ない。“普通の子”が普通に感じられる喜怒哀楽や恐れ等が全く感じられない事から、周りの人間からは不気味な怪物として扱われてしまう。彼の数少ない理解者だった母と祖母が通り魔に襲われ、独りぼっちになってしまった事で、彼は更に追い詰められてしまうのだが、感情が無い彼としては、そんな状況をもどうこう感じられないのだから、第三者の自分としては「こういう子に対して、どう接すれば良いのだろうか?」と困惑してしまう。
そんな彼の前に現れたのが、幼い頃から複雑な環境に置かれ続け、自らの感情をコントロール出来ない少年ゴニ。ユンジュ同様、周りから“怪物”と見做され、遠ざけられていた彼との出会いにより、ユンジュの人生が変わって行くというストーリーだ。
「心に突き刺さる内容で在る。」のは間違い無いのだけれど、全体的に“御都合主義”な感じがしてしまう。植物状態となった母親、怪物のユンジュとゴニ等、「こういう結末になるのだろうな。」という予測が、実際に其の通りになっていたから。そういう部分が気になる人は、高い評価が付けられない事だろう。
総合評価は、星3つとする。