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一浪で憧れの医学部に入学した雨野隆治(あめの りゅうじ)を待ち受けていたのは、ハードな講義と試験、衝撃の解剖実習・病院実習。自分なんかが、医者になれるのか?なって良いのか?悩み乍ら、仲間と励まし合い、患者さんに教えられ、隆治は最後の関門・国家試験に挑む。
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「1980年生まれの現役外科医で、37歳の年に病院長にもなった。」という経歴を持つ中山祐次郎氏。「医師で在り、作家でも在る。」という異能の人だ。
彼の「『泣くな研修医』シリーズ」はTVドラマ化もされた人気シリーズで、今回読んだ「悩め医学生 泣くな研修医5」は第5弾となる。「『泣くな研修医』シリーズ」では在るものの、「悩め医学生 泣くな研修医5」は主人公・雨野隆治の医学生時代を描いている。正確に言えば、「浪人時代→医学生時代→研修医に成り立ての時代」だ。
「二浪→医学生→研修医」を経て、医師の道に進んだ中山氏。だからこそ、記述にリアリティーが在る。医学生として隆治が「早期医学体験」なる講義を受けるのだが、此れは「医学部に入り立ての1年生が、患者さんに実際に会い、色々と病状を聞く。」という物なのだが、ALSの患者が受けたという「筋肉を取って、顕微鏡で見る検査。」という記述には、「そんな事をするんだ!」と驚いてしまった。現役の医師ならではの記述と言って良い。
此処からは失礼を承知で、自分が思っていた2つの事を書く。1つは、「肛門科」に付いてだ。実は知り合いの家の近くに肛門科を専門とする病院が在り、其処を通る度に「肛門許りを診診察する医師って、何か嫌だなあ。家族も恥ずかしいんじゃないかなあ。」という“偏見”を持っていた。でも、「肛門外科を専門とし、肛門を50年見続けて来たという医師の講義。」を隆治達が受けるのだが、終わった後に学生達が心から感動し、拍手を送るという場面が在る。自分も読んでいて“肛門の奥深さ”、そして“肛門の重要さ”を思い知らされ、とても感動したし、肛門科に対して偏見を持っていた事が本当に恥ずかしくなった。
そして、もう1つは“医師に対する偏見”だ。自分は学生時代、法学部に在籍していた。出来の悪い生徒だったので、弁護士を目指すなんて夢にも思わなかった。当時の司法試験は超難関で、最終合格率は3%も無かったと記憶している。
一方、医師国家試験の合格率は約90%とされており、「超難関の大学に入学して医師になるのは非常に難しいだろうが、極端な話、三流大学に入学しても約90%は医師になれるのだから、医師になる事自体は、そう難しくは無い。」と考えていたのだ。でも、「悩め医学生 泣くな研修医5」を読むと、医学生時代に覚えなければいけない事が余りにも多く、又、少しでも気を抜くと“医師の道”を閉ざされてしまう可能性が在る。」事、そして約90%の合格率という医師国家試験も、そう単純なシステムでは無い事も知った。
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この試験の受験者数は全国で約1万人。合格者は9,000人。つまり約9割は合格する資格試験である。これほど合格率の高い国家試験は他になく、「合格して当然。」というのが医学生にとってのプレッシャーでもあった。法学部を出て法曹の道に進む者は一部だが、医学部を出て医師免許を取らぬ者はまずいない。医学部を卒業後、臨床医として白衣を着ることを選ばない者でも、医師免許は取得するのだ。
9割合格するということは、1,000人は不合格となる。不合格になる条件はいくつかあり、まず「一般問題」と呼ばれる出題の点数が他の学生より著しく低いこと(相対評価)、「必修問題」の点数が8割以下となること(絶対評価)がある。そして、いかなる点数を取っても必ず不合格になる「禁忌肢条件」と呼ばれる制度が存在する。禁忌肢とは、「こういう治療を選んだら患者さんが死ぬ」という、絶対に選んではいけない選択肢を指す。もし禁忌肢を3つ以上選んでしまうと、他の点数がどれだけ良くても必ず不合格となるのだ。
その選択肢もそれほど容易に見抜けるものではなく、「カリウム製剤を静脈注射する」というような医学生にとって常識の問題が出るわけではない。どの問題に禁忌肢が潜んでいるかは試験用紙に書いておらず、医学生たちは疑心暗鬼で1つ1つの問題を解答しなければならないのである。
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「こういう苛烈な医学生時代、そして医師国家試験を経て、今の研修医・隆治は存在しているのか。」と感動したし、研修医としても日々苛烈な状況に置かれている事に尊敬の念も。
総合評価は、星4つとする。