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渋谷・新宿で相次いで発生した無差別殺傷事件。警察は衆人環視の中、別人を現行犯逮捕するという失態を繰り返してしまう。警視庁捜査一課・碓氷弘一は警察庁心理調査官・藤森紗英を相棒に事件の真相に迫る。
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様々な分野の小説を生み出している今野敏氏だが、矢張り一番面白いのは警察小説。此の程読み終えた「エチュード」も、同氏の警察小説だ。
冒頭の梗概にも在る様に、此の作品では渋谷と新宿で発生した無差別殺傷事件を題材にしている。極めて短い日数の間に渋谷駅ハチ公前広場、新宿駅東口前広場、そして再び渋谷駅ハチ公前広場で発生しているのだが、3件には多くの共通点が見られた。全てが通行人の多い広場で発生している事、何れの発生現場も交番が近い事、死者が其れ其れ1人で在る事、被疑者が現行犯逮捕されている事等。此れだけならば「普通の無差別殺傷事件」という扱いになろうが、興味深いのは「現行犯逮捕された被疑者達が皆「自分は遣っていない。」と全面否定している事に加え、最初の2件では被疑者を取り押さえて逮捕に協力した男性の姿形を、現場に駆け付けた警察官全てがハッキリ覚えていない事。其の男性は何時の間にか現場から消え去ってしまっていたのだが、服装や顔等を必死で思い出そうとしてもハッキリは思い出せず、何故か被疑者の姿形しか浮かんで来ないのだと言う。「人を記憶するプロの警察官達が、協力者の姿形をハッキリ思い出せない。」というのが、此の小説の鍵になっている。
仕事&家庭両面にて自身に自信を持てないでいる47歳の中年警部補・碓氷が、警察庁から派遣された心理調査官・藤森紗英と組んで此の無差別殺傷事件を解く事になるのだが、「出世街道から外れた中年男」と「エリートで若い美女」という対比が良い。単に正反対のキャラクターを組ませたというだけならば面白味は無いのだが、プロファイリングを始めとして心理面で犯人を追う紗英が心理調査官という道を選んだのは「正体不明の怯え」が在ったからで、或る意味で碓氷と紗英は似た者同士という点が面白いのだ。
彼女のプロファイリングによって犯人像がどんどん絞られて行くのだが、正直言って「御都合主義」と感じてしまう部分も在る。けれど「被疑者と逮捕協力者の男性を、警察官達が同一化してしまった理由。」や「犯行動機」を心理面で分析して行く過程には、「成る程。」と思わされた。
タイトルの「エチュード」は、「練習曲」という意味。其の他に「勉強」という意味も在るとか。内容面を踏まえると、此のタイトル付けが上手く嵌っている様には思えない。洒落たタイトル付けをした事で、全体像がぼやけてしまった感が在る。
総合評価は星3つ。