元書店員の作家・大崎梢さんが著した「成風堂書店事件メモ・シリーズ」は書店を舞台にしたミステリーだが、今日は其の第三弾「サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ」をレヴューする。
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「取り寄せトラップ」
同一書籍に4件の取り寄せ依頼。ところが連絡を入れると、4人が4人共そんな注文はした覚えが無いと言う。誰が、何の目的で行った事なのか?
「君と語る永遠」
或る日の成風堂に、近隣の小学生が社会科見学に訪れる。其の内の1人がグループから離れて別行動し・・・。
「バイト金森くんの告白」
新しくバイトやパートに入った店員の歓迎会の飲み会の席で、此の秋から成風堂でバイトを始めた大学生の金森君が、自身の高校時代に「成風堂にて或る女性に恋をしてしまった。」事を唐突に口にする。彼女が取った或る行動が、今でも彼のトラウマになっている様なのだが・・・。
「サイン会はいかが?」
「ファンの正体を見破れる店員の居るいる店で、サイン会を開きたい。」。イケメンの若手ミステリー作家から出された風変りなリクエストに、名乗りを上げた成風堂。しかし「ファン」というのは真っ赤な嘘で、彼が正体を見破って欲しかったのは「自身を執拗に攻撃する謎の人物」だった。
「ヤギさんの忘れもの」
常連客の老人・蔵本が来店する。写真を趣味とする彼は、懇意にしていたパートの女性店員・名取に撮った写真を見せに来たのだ。しかし彼女は、夫の転勤で青森に引っ越してしまった後だった。酷く気落ちした蔵本は店を後にするが、暫くして彼から成風堂に電話が掛かって来る。どうやら店内に、写真の入った封筒を置き忘れてしまった様なのだ。
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確り者の店員・杏子を狂言回しに、勘の鋭いアルバイト店員・多絵が謎を解いて行くという此のシリーズ。長編の第二弾「晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)」は成風堂を飛び出して、血腥い過去の事件が絡んだ謎を解いた2人だが、今回の作品は第一弾「配達あかずきん 成風堂書店事件メモ」と同様に短編で、謎も「成風堂を舞台にした不思議な出来事」という感じになっている。
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厚さ2センチ、重さ1.5キログラムもある大判のファッション誌が山のように入荷し、積み重ねるだけでも一苦労なのに、必ずと言っていいほど付録がついてくる。いちいちゴムで閉じなくてはならず手間がかかる上に、裁断されたばかりの表紙の縁は鋭く、さばく人間の手を傷つける。バンソウコウの世話になることがしばしばだ。
(中略)
雑誌が増えればスペースを確保せねばならず、付録があれば組む手間が増え、しかもその付録がゴム輪ですむ冊子のようなものならまだしも、紐でくくるしかないもの何重にも時間がかかる。
(中略)
新しく入ったフリーターの子が心細げに「これは燃えるゴミですか。こっちは燃えないゴミですか。」と聞いてくる。分別が進み、売り場のゴミも細かく分けなければ、突っぱねられてしまう。通常のゴミならば、梱包用のビニールやいらなくなったちらし類で問題はないのだが、やっかいなのは販促物のパネルや売れ残った本についていた付録。本は返本してしまうが付録はこちらで処分しなくてはならない。素材が紙製、布製、ビニール製ならば、燃えるゴミとしてまとめて放りこめるが、中に金属製がまぎれているとNG。缶のペンケースや、ペンダントなどのアクセサリーはもとより、ファスナーやクリップといった細かいものまで、必ずよけなくてはならない。ただでさえ朝の忙しいときに恐ろしい手間だ。
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上記は「バイト金森くんの告白」内の記述だが、冊子の付録を閉じる際に表紙の縁で手を切ってしまうとか、付録の処理の面倒さ等、元書店員ならではの描写。「サイン会はいかが?」での「サイン会の準備&進行」に関する描写も、「そういう大変さが在るんだ。」と興味深かった。
「取り寄せトラップ」と「バイト金森くんの告白」の2作品に付いては、正直尻窄まりというか未消化というか、非常に物足りなさを感じる。「君と語る永遠」及び「ヤギさんの忘れもの」は、まあまあといった感じか。個人的には「サイン会はいかが?」が一番好き。先日の記事「困ったちゃん Part1&Part2」で「虐めた人間は其の事を直ぐ様忘れ得ても、虐められた人間はずっと覚えているもの。」と書いたけれど、其の事を思い出させる内容。「或る事で得た物」と「其れによって失ってしまった物の大きさ」という対比が物哀しい。
此の作品でも、作者の本や書店に対する深い愛情が感じられる。総合評価は星3つ。
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「取り寄せトラップ」
同一書籍に4件の取り寄せ依頼。ところが連絡を入れると、4人が4人共そんな注文はした覚えが無いと言う。誰が、何の目的で行った事なのか?
「君と語る永遠」
或る日の成風堂に、近隣の小学生が社会科見学に訪れる。其の内の1人がグループから離れて別行動し・・・。
「バイト金森くんの告白」
新しくバイトやパートに入った店員の歓迎会の飲み会の席で、此の秋から成風堂でバイトを始めた大学生の金森君が、自身の高校時代に「成風堂にて或る女性に恋をしてしまった。」事を唐突に口にする。彼女が取った或る行動が、今でも彼のトラウマになっている様なのだが・・・。
「サイン会はいかが?」
「ファンの正体を見破れる店員の居るいる店で、サイン会を開きたい。」。イケメンの若手ミステリー作家から出された風変りなリクエストに、名乗りを上げた成風堂。しかし「ファン」というのは真っ赤な嘘で、彼が正体を見破って欲しかったのは「自身を執拗に攻撃する謎の人物」だった。
「ヤギさんの忘れもの」
常連客の老人・蔵本が来店する。写真を趣味とする彼は、懇意にしていたパートの女性店員・名取に撮った写真を見せに来たのだ。しかし彼女は、夫の転勤で青森に引っ越してしまった後だった。酷く気落ちした蔵本は店を後にするが、暫くして彼から成風堂に電話が掛かって来る。どうやら店内に、写真の入った封筒を置き忘れてしまった様なのだ。
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確り者の店員・杏子を狂言回しに、勘の鋭いアルバイト店員・多絵が謎を解いて行くという此のシリーズ。長編の第二弾「晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)」は成風堂を飛び出して、血腥い過去の事件が絡んだ謎を解いた2人だが、今回の作品は第一弾「配達あかずきん 成風堂書店事件メモ」と同様に短編で、謎も「成風堂を舞台にした不思議な出来事」という感じになっている。
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厚さ2センチ、重さ1.5キログラムもある大判のファッション誌が山のように入荷し、積み重ねるだけでも一苦労なのに、必ずと言っていいほど付録がついてくる。いちいちゴムで閉じなくてはならず手間がかかる上に、裁断されたばかりの表紙の縁は鋭く、さばく人間の手を傷つける。バンソウコウの世話になることがしばしばだ。
(中略)
雑誌が増えればスペースを確保せねばならず、付録があれば組む手間が増え、しかもその付録がゴム輪ですむ冊子のようなものならまだしも、紐でくくるしかないもの何重にも時間がかかる。
(中略)
新しく入ったフリーターの子が心細げに「これは燃えるゴミですか。こっちは燃えないゴミですか。」と聞いてくる。分別が進み、売り場のゴミも細かく分けなければ、突っぱねられてしまう。通常のゴミならば、梱包用のビニールやいらなくなったちらし類で問題はないのだが、やっかいなのは販促物のパネルや売れ残った本についていた付録。本は返本してしまうが付録はこちらで処分しなくてはならない。素材が紙製、布製、ビニール製ならば、燃えるゴミとしてまとめて放りこめるが、中に金属製がまぎれているとNG。缶のペンケースや、ペンダントなどのアクセサリーはもとより、ファスナーやクリップといった細かいものまで、必ずよけなくてはならない。ただでさえ朝の忙しいときに恐ろしい手間だ。
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上記は「バイト金森くんの告白」内の記述だが、冊子の付録を閉じる際に表紙の縁で手を切ってしまうとか、付録の処理の面倒さ等、元書店員ならではの描写。「サイン会はいかが?」での「サイン会の準備&進行」に関する描写も、「そういう大変さが在るんだ。」と興味深かった。
「取り寄せトラップ」と「バイト金森くんの告白」の2作品に付いては、正直尻窄まりというか未消化というか、非常に物足りなさを感じる。「君と語る永遠」及び「ヤギさんの忘れもの」は、まあまあといった感じか。個人的には「サイン会はいかが?」が一番好き。先日の記事「困ったちゃん Part1&Part2」で「虐めた人間は其の事を直ぐ様忘れ得ても、虐められた人間はずっと覚えているもの。」と書いたけれど、其の事を思い出させる内容。「或る事で得た物」と「其れによって失ってしまった物の大きさ」という対比が物哀しい。
此の作品でも、作者の本や書店に対する深い愛情が感じられる。総合評価は星3つ。