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秋の或る日、大往生を遂げた男の通夜に、親類達が集った。子供、孫、曽孫、30人余り。一人一人が死に思いを巡らせ、互いを思い、家族の記憶が広がって行く。生の断片が重なり合って、永遠の時間が立ち上がる奇跡の一夜。
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第154回(2015年下半期)芥川賞を受賞した小説「死んでいない者」(著者:滝口悠生氏)は、1人の高齢男性の通夜に集まった親類達の姿を描いている。其れも、“通夜が行われた夜だけ”という極めて短い時間を取り上げ、登場する親類達(通夜に出席していない者も含めてだが。)も「酒癖が悪く、幼子を残して失踪してしまった男性。」、「中学時代に不登校となり、高校には通って卒業するも、卒業後直ぐに祖父(=亡くなった高齢男性)の家に転がり込み、ずっと引き籠りの様な生活を送り続けている男性。」、「中学生を含む、酒飲みな未成年達。」等、其の名前も含めて個性的な面々。こう書くと、魅力的な内容に感じられるかもしれないが・・・。
登場人物達を俯瞰的に描いている感じがするけれど、語り手や登場人物の言葉、そして時代が唐突且つちょこちょこと変わっているので、非常に判り辛い。又、取り上げられている内容も、取り留めの無い日常の出来事許りで、面白味が全く感じられない。
好きな方には申し訳無いが、自分は映画「『男はつらいよ』シリーズ」が苦手。「市井の人々が集まり、取り留めの無い日常の出来事をああだこうだと遣り取りする事で、“人情の機微”を浮かび上がらせている。」というのは判るのだけれど、どうにもそういうのが駄目なのだ。今回の「死んでいない者」を読んでいて、「『男はつらいよ』シリーズと似た“匂い”がするなあ。」と感じていたのだが、滝口氏が同シリーズのファンらしい事を知り、「道理で・・・。」と納得してしまった。
著者は此の作品で、何を言いたかったのだろうか?締りの無い終わり方も併せて、消化不良な感じだけが残る作品。
総合評価は、星2つとする。